【41】生還
「………い」
……
………………
「…………こい」
……
……………………
誰かが
「……ってこい!」
誰かが呼んでいる気がする。
「戻ってこい!!」
一体それが誰なのか、今の俺にはわからなかった。
知っているはずなのに。俺はそれが誰なのかわかっているはずなのに、答えが見つからない。
「戻って来いよ!!!」
俺を呼ぶ、泣きそうな誰かの、叫びが
うるさいくらいに頭の中に響いて。
「……」
「…………ボス?」
目を開いて最初に飛び込んできたのは、まるで水風船を破裂させたような顔面を下げている男。
俺の事をまっすぐと見つめて、いろんな液をぼろぼろと垂らして……
「タッツ」
「ぼ、ボス!」
思わず右腕でその顔面を押しのける。
勘弁してくれ、目覚めに男の、それもこんな気色の悪い野郎の顔を見る趣味は無いぞ。
「ぼ、ボス! ひでぇ、ひでぇぞさすがに!」
「あんだよ、うるせぇな。 男の寝顔を覗くのが趣味か? 頼むからゲイだけはやめてくれよ」
「起きた途端この人ほんとひでぇなオイ!」
起きた途端……そういや俺は、何をしていたんだか。頭がぼんやりとしてはっきりとした言葉が出てこない。
ゆっくり、ゆっくりと一つずつ思い出して……あぁ、そういえば俺は
「あんたが……あんたが何時までも起きないから……俺は本当に死んだのかと……」
「……タッツ」
「あんだよ!」
腕を見れば輸血用の管が通され、俺の体から急速に失われた血液がパッケージングされた輸血用セットから補填されていた。
確かに俺はこれの使い方を教えたが、まさか使う相手が自分になるとはな。
「これで死んだらお前の枕元に立ってやるからな」
「……はぁ」
「なんだよ」
タッツは呆れたように立ち上がり、近くにあった荷物の整理をし始める。
俺はというと……動こうにも立ち上がるにはまだ血が足りないらしい。大樹を背に転げたまま、徐々に体力が戻るのを待つしかないらしい。
ふと腿の方へと視線をやれば、本格的な処置が施され止血も完璧だ。これなら後遺症の心配も少ないだろう。
こちらに背中を向けたままの彼の影を追って、息を吐いた。
(あいつは人一倍座学を頑張ってたからな)
医療を全て網羅した、なんてことはないんだろうが、応急処置全般やキットの使い方は完全に把握したらしい。
そのお陰で俺は今生きているらしい。
なんだかそれがおかしくなってしまって、しばらく隠れて笑っていた。




