【39】逝去
……
…………
…………………………。
「よお」
「……あぁ?」
どこだここは。辺り一面真っ白で……雪でもない、砂漠でもない。いうなら何もない、そんな世界が広がっていた。
そんな場所で俺は今まで眠っていたらしく、その声がかかるまで意識を完全に失って、ここに横たわっていたらしい。
霞む意識を振りほどくように頭を振ってから、その声のする方に意識を向けてみる。
「……」
驚いた。
いや本当に驚いたから、目をかっぴらいて馬鹿みたいにそこで動きを止めてしまった。
どうやらここは正気の世界じゃないらしい。
「ネイサン」
「気が付いたか」
俺を見下ろしていた顔は、最近はすっかり見れなくなってしまっていたその姿。
自分の頭がおかしくなったかと思ったが、今更自分を疑うのはやめにしよう、ここはなんでもありの世界なんだ。
素直にその目の前の現象を受け入れて、俺は素直にその再開を喜ぶことにした。
あぁ、俺に向けられて差し出されたその手は俺の記憶の彼のそれ。
俺はこれに掴まって何度も何度も立ち上がってきた。
今回もまた、そうして。
「久しぶり」
「そうだな。 お前も元気そうじゃないか」
「大変だったさ、何もかも。 何もかもがこの世界じゃ初めてだった」
目の前の事に食らいついて、これ以上ないほどに生を堪能した時間だった。
あぁ確かにこれ以上ないほどに俺は生きていた。
「おれを迎えに来たのか?」
そして、今その歩みは止まり、気が付けばこんな場所に。
微かに思い出せそうな記憶の中にあったのは絶望的な状況の中、自分に向けられた銃口の落ちくぼんだ闇。
推測何て言葉を使うまでもない、結果はこの通り。
「悪い。 結局こんな終わり方だ。 あんたにせっかく育ててもらったのにな」
「そうだな」
もっと相応しい、世界の運命にかかわるような現場での死なら報われた……なんてことはいいやしないが、それにしたってしまらない末路だ。
せめて戦いの中命を散らすかっこうくらいつけたかったと思うが、それを言ったところで命が戻るわけでもない。
「ネイサン、久しぶりにあんたとゆっくり話したいな。 色々あったんだ、本当に色々」
「あぁ、お前も随分成長したようだな」
「そうか? ありがとう」
自分では余りそんな意識はないが、まぁあれだけの事をしてきたんだ、随分と変わったんだろう。
それにネイサンと会うのは随分と久しぶりだ、当然印象がかなり違うのも当たり前か。
「……なぁ」
「なんだ」
俺は出来る限りのことをした、出来うる限りのことをしてきて、走り続けた。
けどそれがどんな結果につながったのか、それがどんな風に評価されるものなのか、考えたことも無くて
今こうやって落ち着いてみて、ふとそんなことが気になってしまう。
俺は、何かを出来たんだろうか。
「ネイサン、俺は……俺は」
「伊津」
上手く出ない言葉の間に、先にネイサンが声を挟んで、俺はそちらに振り向き首を傾げた。
いつの間にかネイサンは俺から遠くへ離れていて
彼の足元には、大きな湖が広がっていたのだから。




