【28】頸南
悔しいけれど、タンガの奴の凄い。
「……っ!」
あの崖の向こうから寸分狂わない正確な射撃を既に何度も行っている。
俺だって狙撃のリクルートを受けたけど……適正判断はC-。タンガの奴はA+で通過したらしい。
いやだって、風を読めなんて無茶だろ! 読めるかそんなもん! 鳥じゃねぇんだぞ、人間には不可能だ!
「……」
目の前でまた一人"見えない殺し屋"に撃たれ、頭を半分なくして倒れる。
……人間にも読めるんだなぁ。
っと、感心してる場合じゃない、俺も仕事をしないと。
「出入り口を塞げ! 馬は殺してもいい、絶対に逃がすな!」
マズルフラッシュがそこら中で炊かれてピカピカと光る戦場、先ほどまで静かだったこの場所は一気に戦禍の真っただ中。
奇襲は完全に成功って言っていいんじゃないか。あいつらまともに反撃もできず、どこに集まるべきかもわからず俺たちの前に出てきては倒れている。
王様の前話をするよりこっちの方がずっと楽だぜ。
「リロード! スッティ、カバー!」
「こっちはあと7発だ! さっさとやれ馬鹿!」
ったくこいつは一々口が減らねぇな! マガジンを払って胸に取り付けられたポーチから替えを取り出しライフルに取り付ける。
これを一秒以内にやらないと出来るまで何回でも、何回でもやらせられたから、気絶しても腕は動かせるくらいに仕込まれた。
「前進!」
これだけ制圧すれば恐らく残りはさほど兵力はいない、いても身動きがとれないはずだ。
崖の麓から隊がじわじわと前進し始め、予定通りホフスの隊が出口を火の海に変え、厩舎の前に狙撃手を配置している。
完璧なプランニングだ。
この作戦の第一段階は俺らとは別に動いている王旗下の騎馬隊の攻撃から始まる。
騎馬は遥か後方に確認された補給の陣一つに対し火計をもって、騎馬隊はそのまま離脱。
燃え上がった煙に反応し前線へ出ている陣から兵が戻るのを見て、その後この地域で帰還となっているだろう拠点を強襲
敵の主格を捕縛し、出来れば生きた状態でそいつをリレーアまで引っ張っていく。
「ホワイトクロウを見た奴は?」
「まだだ、誰もいない。 銃弾に当たって死んでなきゃいいけどな!」
となると、後はあそこだけか。
前を行っていたスッティの肩を叩いてこちらを振り返らせる。
全体作戦は他の連中だけで進行できるだろう、俺らは仕事をしなけりゃな。
「あそこ」
一際大きな天幕、偉い奴が入ってるならいかにもって感じじゃないか?
「よっしゃ俺が前に出る。 お嬢ちゃんはついてきな」
「お前もういい加減にしろよ、ケツの穴増やすぞ」
「へいへい、すいませんでしたすいませんでした」
スッティもまた再装填を終えて準備を整える。
後方に詰まっていた連中には自由にやるよう指示を出し、俺も接近戦を行うために取り付けられたトリジコン?
なんかそういう名前の奴を入れ替えて、接近戦でも視界を広くとれるサイトに切り替えた。
そんな事をしている間に、スッティが妙に長いモノを抱きかかえているのが見える。
「げっ……お前そんなもん持ってきたのかよ」
「気づかないとかお前も間抜けだね、俺はこいつを撃ちたくてうずうずしてんだ」
「正気かよ」
やっぱこいつ頭おかしいぜ。
まぁ戦場じゃ頭おかしいくらいが役に立つのか…
こんなところで真面目ぶってたって、何の役に立たないもんな。




