【26】金氷
ホーフォーウェン。リレーアを防衛するために構築された砦群をまとめてこう呼ぶ。
どこか一か所でも攻撃されればそこが狼煙を上げて、周囲の砦からすぐに兵が派遣され侵攻は阻害される。
ではそれを破るためにはどうしたらいいのだろうか。
その答えは実にシンプルであった。
「これで11」
少数の兵力を動員し奇襲を行い、一気に砦を陥落させていく。動きも静かで実に穏やかな戦いが行える。
問題だったのはその士気を行う前線の将軍の不在であったけれども、今はそれも解決され、こうして結果として出ていた。
「なるほど。 特殊部隊というのが重宝されるわけですね」
自分でやってみて初めてその真価というものがわかる。
彼らに散々してやられた我々としては、それを不完全ながら再現できたという確証が得られただけ喜べるというもの。
彼らのように迅速さはないものの、アンデットの兵士たちはその分スタミナ要らずで昼夜問わず行軍が可能。
更に減った人員は少々時間のかかるものの現地で調達が可能で、寒さにも強い。
彼らの扱う特殊部隊とは違うものの、これならば十分に有用であると証明された。
とはいえこれはまず小手調べといったもので、本格的にリレーアを陥落せしめんとしたわけではない。
いわばテストというべきものだったのだけれど。
(将軍はお元気ですねぇ)
引き上げるどころか次々と進んでしまっていて、こっちは追いつくのですらやっとという有り様。
困ったことに彼を止めようにも私の足では追いつけない。伝書鳩でも飛ばしたいところだが、この寒さで鳩は飛ばないのだから。
いやはやこれは少々想定外というか、ちゃんと命令方式を作る前に手から離してしまったのは失敗だった。
「カヴァーニャ。 どうです、捕まえられそうですか」
「無理ですリシェン様。 既に影も形もありません!」
「そうですか」
期待していたわけではないけれど、斥候からの報告はやはり相変わらず。
向こうは砦の攻略をしているはずなのに一向に追いつけずもう一週間以上追いかけっこ、困ったことに影も踏めないでいる。
このまま放置しても実害があるわけではないが、後続の本体との連携が取れないままあの部隊を失うのは痛い。
とりあえず前に出させてはいるが、このままなし崩し的にリレーア侵攻が始まるとなったら自体がどういう風に転がるか予想がつかないじゃないか。
「カヴァーニャ、いきますよ」
「はっ! この砦は?」
「兵を三十人駐留させて後続のために準備させなさい」
「了解です」
何はともあれ既に軍は動き始めてしまった。この結果がどうなるのであれ、それを見届ける義務が私にはある。
次の機会のため。そしてその次の、次の、終わる時までに続く私の技術体系。
なに、どうせこれが失敗したところでもう一度やり直せばいいだけだ。死体などこの世界にはいくらでも転がっているのだから。
「リシェン様!」
一体何用か。あれは後続に置いてきた兵士の一人か、雪上に馬を走らせる、騒々しいものだ。
その伝令がこちらの姿を見つけると、直前で手綱を引き絞り足を止める。
「リシェン様!!」
「なんですか騒々しい。 私はあなたのような人間が嫌いだと言ったはずでしょう」
「も、申し訳ございません!」
そういって私の前で下馬し、跪く。
まったくどうしてこう……
「しかしながら、自体は急を要します!」
「報告なら早くするがいい」
「はっ!」
今度からこうした雑事は誰ぞ他の人間にやらせるとしよう。
……やはりジェイメリを殺してしまったのは失敗でしたねぇ、あれは実に使い勝手がよかったのに。
「後部、ファルマークの糧秣、全て焼け落ちたとのこと!」
なんだと?
それは
「本軍の前進まかりならず! この場で指示を待つ、とのことです!」
「リシェン様!」
「……」
あぁしまった
つい。
「でもまぁ、いいでしょう」
少し汚れしまいましたが、問題はないはずです。
ここに湿気があれば衛生上の問題があったでしょうが。
「彼の死体はそのうち凍りますから、心配ありませんよ」




