【19】理由
木の根元であるからじめじめとしていて居心地がよくないのは仕方がない。
「……」
だがそれ以上に感じる空気の重たさは別の場所から発している、空虚な瞳のまま空を見つめるアーニアルの心中は一体何をみているのか。
「今は忘れてしまえ」
それができたら苦労はしない、か。
「……私は」
それでも前に進むしかない。
「私は王位を簒奪した、私は兄から王位を奪ったのだ」
「大したタマだな」
驚いた、そんなことをするような人間には思えなかったから。
「母は兄を愛していた、私よりもずっとな……だが兄には施政者としての器がなかった、彼をあのまま王にするわけにはいかなかったのだ」
一人語るアーニアルは恐らく俺に語っているわけではない、言い訳じみた言葉を繰り返しているのだろう。
「だから……だから私が立つしかなかった。 私が父の残したこの国を守らなければ、守らなければならなかったのだ」
「お前」
「なんだ」
俺のことに初めて気づいたとでも言いたげに顔を上げたアーニアル。
「自分のこと、私って言ってるぞ」
「ふん……今更取り繕うまい」
恐らくこいつ、王のそぶりがまだ身についていないのだろう。アーニアル二世誕生はどうやら予期せぬ出来事らしい。
「そんなつらそうな顔するくらいなら、やらなきゃよかったんじゃないのか」
王なんてなったところで、そんな悲しみを抱え込むだけじゃないのか。
「……貴様とて、こんなところにきているだろう」
「ん」
「私に恩もなければ顔すら知らない相手、それを何で命を懸けて助けに来た」
「鋭い野郎だ」
確かに俺の言えるセリフではなかったし、こうなれば白状してしまうしかない。
あぁ恥ずかしい、出来れば墓まで隠し通すものだと思っていたのに。
「あの城でお前を救うために何やってると思う? 祈祷さ、神に祈ってる」
「ふん、下らんことだな」
何でわざわざこんなことにかかわっているのか。
「その下らんことでお前が死ぬと責任を取らされそうな女の子がいてな、笑うなよ、女絡みだ」
言ってしまえば簡単な理由だった。たったそれだけのことでこんなところで命を張っている。
「馬鹿かお前は」
「あぁ、俺も改めて自分が大馬鹿なことに気づかされたよ」
だがきっとパラダがあの女に処刑でもされていたら、俺はきっと一年は寝覚めが悪くなるだろうさ。
それなら気持ちのいい睡眠のために多少のリスクを背負うべきだと思った。
「くそ、笑うな。 だから言いたくなかったんだ」
「いや、人離れしているお前のような戦士がまさかな、思ったより人間らしい人間で驚いてしまった、すまん」
ま、恥を忍んだお陰でアーニアルにも笑顔が戻ったことだ、タイミングとしてはちょうどいい。
「そろそろだ」
「何?」
手に持っていた帽子をかぶりなおしてファイバースコープを取り出す。
「逃げるぞ、頃合いだ」




