【21】戦時
急ぐんだ。
今は急げば急ぐほど全てがうまい方向へと転がっていく、そういうはずだ。
「リレーア公? お早いお帰りで」
「あぁ、まぁな。 シーシェはどこだ?」
ATVの動力を切って背後に乗っていたコニューを降ろす。
中々不満げだが、今はそんな不機嫌さに付き合ってる暇はない。
門番をしている男が少々不思議そうにしてから、扉を開け、俺の方へ礼をとった。
「長子様はハンブルスク邸にお立ち寄りのはずです」
「感謝する。 それと、その呼び方はあいつが嫌がるぞ」
「左様ですか?」
シーシェの場所がわかったのでATVを近くの奴に任せ、街の中を進んでいく。
まさか街中をATVで爆走するわけにもいかない。急ぎたいところだが、ゆっくり歩いていこう。
「嫌ならついてこなくてもいいんだぞ」
「いーやーーだーーー。 今日一日の予定空けておいて、まだお日様こんな高いのに戻ってきちゃってさ」
「約束ってのは破るためにあるんだ」
悪いとは思ってる、今日は一日付き合う約束しておいて途中で切り上げて戻ってきてしまったんだから。
この埋め合わせは何かと考えちゃいるが、今は目の前の仕事を片付ける事が先だ。
この街に工人集団を呼び寄せるために随分こまごまとした手続きや連絡、そして何よりシーシェの奴に協力を取り付けなければならない。
「すまない……すまない!」
「誰……リレーア公! 何事ですか」
ハンブルスク、この地の有力貴族の家を守る衛兵も俺の顔を見れば、槍はその穂先を天に向けたまま背筋と並列して動かない。
彼に用事を伝え、開かれた門にも振り返ることなくその屋敷へ踏み込む。
ハンブルスクの人間とは面識がないが、緊急の事態ということでほとんど無理やりに踏み込み、途中にいた使用人を捕まえ尋ねた。
「シーシェの奴はどこだ?」
「あなたは…?」
「リレーアの守り人だよ。 緊急の事態だ、直接話がしたい」
「…! これは失礼しました、海貿資管殿はお二階の貴賓室におられます」
「ありがとう」
恰好がかなりラフだったせいで道中訝し気な目で見られつつ、その貴賓室へと向かい走っていく。
止められなかったのは恐らく後についてきているコニューのおかげだろう。貴族の世界ではそれなりに顔が売れている。
後でガムの一つでもくれてやろう、ミントが鼻の中突き抜けて十八時間スッキリする奴を。
「シーシェ、シーシェ!」
「……公?」
こっちか。声のした方向へ突き進んでいけば、確かに警備が厚く、俺の前に二人の男が立ちはだかる。
まぁ正しい反応だし、俺が誰かわかるまで近づけないのは当然だが、今は急ぎたいから許してほしいところだ。
「公! その方はリレーア公だ、お通ししろ!」
「助かる」
シーシェの声と共に二人の間に空いた道、それを通って俺は貴賓室の中に入る。
まぁ恰好が格好だから、その中にいた人々は少々…いやかなりいい顔をしなかったが、綺麗で高そうな服は今家にあるんだ。
とにかく今はシーシェにそいつを伝えて
「公!」
なんだ?
シーシェの奴が俺の元に寄ってきて、なんというか、先手を取られた。
話すことがあるのは俺の方だ、だからシーシェがこうして詰め寄ってくるとは思ってなくて
「リレーアから馬が着きました!」
「あ?」
それはまったくもって考慮していなかった言葉。
予想だにしていなかった
「リレーア北方に、何者かが攻撃をしかけてきているようです。 この会合も出兵の詮議をしていたところです」
シーシェの言葉。




