【18】危機
俺の計画は前進した。
確かに問題が一つ解決した。
けど、これですべてが終わったわけでもなければ、むしろ大きな問題は山積みだ。
「川を船で渡れるようになったからって、兵士が無敵に変わるわけじゃない」
「砦がある限り我々の不利は覆ることが無い」
あぁその通り。今のままじゃ川辺に俺の士気で動いた死体を作るだけ。
戦車砲の一つでもありゃ別だが、そんなものあっても現地まで運ぶ技術が無い。
魔法に頼ろうとも思ったが、どんな攻撃魔法より弓の方が遠くまで飛ぶと聞いたらもはや諦めの色。
「じゃあさ、砦に侵入してばーっとやれないの」
「お前俺の事なんだと思ってるんだ。 それに一個破壊した時点で厳戒態勢だわ」
「なんだよ~、いい案だと思ったのに」
アクセルを開いて更に速度を上げる。
コーディネーターの速度が上がって夏草踏み鳴らし進んでいき
横に開かれた海の上に上がった太陽の光がきらきらと乱反射しては俺達を照らした。
俺の背に捕まったコニューは、速度に振り落とされないようひときわ強く俺の背中を抱き
それとほぼ同時にコーディネーターがちょっとした段差で浮き上がる。
「わぶっ!」
「おい、吐くなら横だぞ、横」
「吐かないよーっだ!!」
気分転換、暇つぶし、どちらでもない。この街の周囲の地理を把握するために今こうして馬を走らせているんだが
そのお陰で、それに無理やりついてきたお嬢様のゴキゲンとりなんてしょうもない仕事もまた一つついてきた。
ま、最近忙しくてろくにそういう生活が出来ていないことも確かだし、それに愚痴っぽくいうつもりもないが。
「で、お前の行きたい所はこの先であってるのか? 俺には草と木と岩しか見えないぞ」
「……多分」
「オイ」
……思い出した、こいつ方向音痴、それもド級のじゃねぇか。
狂ったコンパスの方がまだ頼りになる。これは自分でなんとかするしかないか。
とりあえずコニューから聞いた条件を頼りに、それらしき場所がないか景色をぐるりと見渡す。
恐らく海岸線の辺りにあるとは思うんだが、海は相変わらず乱反射する光をくれるだけ。
どこにも、どこにもそんなものはない。
「巨大翼岩なんてないぞ」
「え~?」
(コニューによると)ここらへんに大きい不思議な岩があって、それが観光名所として冒険者やらに人気なのだとか。
酷く硬い外装で出来てるらしく、それをなんとか持って行こうとしたけれど成功したものはいないとか。
別にそこから派生した戦勝祈願だとか幸運の祈りとかはどうでもいいが、硬い外装とやらには興味がある。
それが俺の望む金属性質を持っていて、尚且つ一定以上の硬度であるなら色々と使いようがある、是非接収したい。
そういうわけだから、見つけたい所なんだが、どうにも。
「もうちょっと、こう、正確な情報はないのか?」
「そういわれてもなぁ。 僕だってここ来るの初めてだし」
「そうだな、お前のナビを頼りにした俺が馬鹿だった」
こうなったら高所に上って肉眼でちまちま探すしかない。ひたすらの単純労働だが、これ以外に解決の仕様がないんだ。
じゃあ走る以外にやれることなんてない。更に吹かしてホイールは高速に回転し熱を持つ。
通常こうした状態で静止するのは難しい。いきなりブレーキを絞れば俺たちが勢いに持っていかれて吹き飛ぶからだ。
だから大きく円を描くようにして、徐々に速度を下げながら地面に靴底をこすり、大きく横にスライドしながら運動エネルギーを減衰させていく。
「わ、わわっ! なんだよ、危ないだろ!」
「……コニュー」
「なに?」
お陰で180度回転した俺達。
その向こう側に見えるのは
「あれ、なんだと思う」
「……」
崖の隙間から見える、やけに不自然に突き出た、岩のようなもの。
それは、確かに翼のように見えた。
「あ、あははは」
今後こいつがどこどこに行きたいと言い始めたら
行く前にしっかりと地図を描くことにしよう。




