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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Under Fire
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【13】過去


 さぁてどうしたものか。


 俺たちは蛇に睨まれたようにここから一歩も動けなくなってしまった。


 ここで下手を打てば全てが水泡に帰す…どころか悪印象の種をまくことになる。

 そうすれば、もはや穏便に事が済むなんてのはありえない話だろう。


「で」


 目の前で不機嫌そうに、といってもこれは彼の素の表情のような気もするが

 とにかく笑顔ではないベーヘンストが再び紫煙を吐き出す。


「顔色が悪いようだが、一服食むか?」

「結構」

「つまらん男だ」


 どうするつもりだシーシェ。明らかにお友達になりにきたって様子じゃない。

 この場をうまく収めるなら頭の一つでも下げなきゃならないような場面だが、一体どうやって切り抜けるつもりか。


「お怒りですか、ミスタ・ベーヘンスト」

「そうだな、お前らみたいな小僧に俺が担げると思われたことは相当ムカついてる」

「申し訳ございません」


 そういってシーシェが軽く会釈をする。それだけで許されるなら相当なもんだ…。

 まぁ高名な家の息子が頭を下げるっていうのはそれなりの意味があるか。


 ともかくこんなもので許してくれるならありがたいものだが


「俺達を担いで船を出させようってか。 コモリデール家のお坊ちゃんもやり口がえげつなくなったな」

「あなた方を見て育ったのです、そうもなりましょう」

「言ってくれる。 罪悪感の欠片もないって顔だ」

「いえいえ申し訳ないと思っておりますよ。 ただ実害はまだ出る前です、良かったではありませんか」


 ベーヘンストが大げさに驚いたようにして見せる。俺だって驚いたぞ。

 こいつは、随分な物言いをするな。


「大した言われようだ、コモリデール家の人間にしておくには惜しいな。 うちで働かないか?」

「いえいえ、貴方と下で働くとなればそのヒゲがちらちらと目に入ってしまいます。 私には合わない職場ですよ」


 聞いてるこっちがひやひやしてくる話を交わし、シーシェは相変わらずニコニコと笑顔を浮かべたまま。

 今更だがこいつは相当腹黒いな。少々ベーヘンストの方に同情してしまう。


 …まぁベーヘンストもベーヘンストでさして変わらんのだろうな。


「まぁいい。 シーシェ、それで、いくつだ?」

「はい?」



 なんだ?



「いくつ必要だと聞いてる。 船の数だよ」

「いえ、しかしミスタ・ベーヘンスト?」


 どういうことだ? シーシェの奴に騙されていたことに気づいたのだろう。

 それならば北に船を送る必要はない、こんなのは子供にだってわかる道理だ。


 それなのにこのヒゲの老人は今まさにその"数"を聞いてきている。


「一人三百も出していただければ」

「随分と豪勢だな。 まぁ何に使うかは大体察しがついてるけどな」


 その時、初めて老人が俺の目を見た。

 俺を覗き込み、まっすぐと正面から光を入れている薄青の瞳。


「不思議か? 騙されていることに気づいてなおこんなことを聞いているのが」

「あ……あぁ」


 不思議といえば不思議だし、理由もまったくわからない。

 彼が何故俺たちに今、こうして協力の意思を示しているのか。

 正直言って俺には皆目見当がつかなかったから。


 戸惑う俺を前に、老人は、ゆっくりと口を開く。


「俺の息子の名前はショーバニア・ユンギンゲン」



 その瞳は揺れて



「七年前北の連中に殺された」



 青く鮮烈な感情を、確かに宿していた。

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