【4】蘇生
困りものというのはこういうことでしょうか。
我々はこの短期間に二人の将軍を失いました。
それも最前線で戦っていた二人であり、この戦線を支えていた人間です。
困ったことに私にそういった役目が務まるわけじゃないですから、新たな人員を振り分けなければならないわけなんですけれども
これまた困ったことに広がった戦線はどこも人手不足。
将軍などどこも数の足りていないもので、引き出しを開ければ出てくるというものでもない。
けれどもこの穴を埋めずにおくというのも中々困ったことになるもの。
さぁどうしたものでしょうか。
「どうされますか?」
私の目の前で縛られ猿轡をされた男が、憎しみの視線を私に上げる。
「ラジルド・マハマン将軍」
ジェイメリが捕らえ、私がその身柄を戴いたシャインガルの将。
この老将軍はシャインガルの北部防衛を取り仕切っていた男で、ジェイメリを相手に十分その能力を見せつけ、1/6の兵力でよく守っていた。
老人の口を封じていた轡を取り、彼の口を自由にしてやる。
「殺せリシェン」
「おやおや物騒なことを。 私は野蛮で歯も磨かない連中とは違いますよ、貴方を殺す理由がない」
「私にはある、今すぐ殺せ」
「舌をかみ切るのはやめてくださいね、面倒ですから」
猿轡をしている理由はうるさいからではない。彼が既に四度も自害に挑戦し、その度に私が彼を手当てしているから。
「それはそれとしてラジルド将軍、一つ提案があるのですが」
「殺せ」
「貴方は自分の価値をわかっておられない、貴方のような人材は殺すに随分と惜しいものなのですよ」
だから今まで面倒を負ってでも彼を生かし、こうしてつなぎとめておいたのだ。
この老将の指揮能力はこと防御となればその地の利、人知、天の動きを知り影のごとく軍を動かす。
戦場では兵たちと共に歩み、戦い、彼らの周囲の兵たちは常にその士気を維持し戦場を動き続ける。
まさしく稀有な存在。これ以上の人材はそうそう落ちている者ではない。
少ない人材は有効活用しなければ。我が軍も無尽蔵に材のあるわけではないのですから。
「もし私に協力してくれるならば、私は歓迎いたしますよ」
まぁわかりきっていたことですが
それを聞いた彼は鼻から笑いを抜くと、こちらへ侮蔑極めた目を落として口をゆがめる。
「牛のクソに顔を突っ込むのであれば耐えられるが、そのような行為には耐えられない」
「そうですか」
困りましたねぇ。
彼には出来れば正気を保ったまま私に協力してほしかったけれど、こうなった以上仕方ない。
背は腹に変えられぬということでしょうか。
「ラジルド将軍、これが何かわかりましょうか?」
「貴様の玉いじりなど興味はない」
手に乗せた黒紫の玉。
透明のガラスに包まれたそれの中では煙のようにも思える雲が渦巻いていた。
「それは結構」
それを、彼の目の前に持って
「……っ、なっ!!」
突き刺さった玉は、彼の左目を押しつぶす。
「がっ……!!」
もともとあった左目は完全につぶれ、今入ってきたばかりの玉によってそれが彼の新しい
「っ、ッッッ!!!」
目となるのだ。




