【40】解決
……
……困ったものですねぇ。
「っ! クソアマ! 気を付けてそいつを振れよ! お前と違って俺はナイーブでヤワなんだ!」
「うるさい知るか死ね。 偶然殺してやる」
「これだよ。 仲良くなったっていうのに」
まったくの想定外というべきか、彼女は私のところに運ばれてくるまで一切の抵抗を見せないと思っていたのですが
現実は予想に反して中々うまくいかないもの。彼女の一撃で私の無明がまた一つ散り散りになって消える。
その隣では聖戦士が彼女の周りを抑え、カリオテに近づこうとしても彼の的確な射撃によって阻害されてしまう。
このまま続けていても彼女が捕らえられないことは、誰にだってわかるはずだろう。
(まさか)
あなたがそのように自分の意思を見せるなんて、まさか。
ありえないことだと思っても現実としてこうなっているなら、事実として受け入れるしかないのでしょう。
(まさかあなたがそのような)
道具が自意識を持って勝手に動き始める、そんなことがあって良いのか。
それは出来損ないだ。設計図の部分に間違いがあり、そのエラーによって起こる不具合。
彼女はそうした間違いを今犯している。
「おい…こいつらはいつになったら居なくなるんだ?」
「知らん」
「お前の筋肉を少しは教養に回せ…右!」
「忠告されずとも見えている。 それと私は賢い、侮るな」
「そうかよ」
私に抵抗して見せるという事はジャハブの手を跳ねのけるという事。
道具が造物主に逆らうなど、これは誰が見ても何かの間違いでしかない。
その間違いを、彼の最高傑作である彼女が犯す。
これは何かの間違いだと思いたかった。彼女は例えどのような状況であっても、ジャハブの最高傑作としてその使命を果たすものだと。
だが今やその幻想は打ち砕かれ、彼女が私の無明を砕く姿は留まることなく流れ続ける。
「はぁ……」
私の体力とて無限ではない。無明を作るのに使う労力は十冊の本を抱えて棚の前を行き来するようなもの。
続けられなくもないが、これは中々体に来る。
しかももはや彼女を捕らえられないと分かった今こうしている意味はないでしょう。
無明ごときで彼女の足を捕らえられるとは思わない、彼女の力をねじ伏せるにはまだまだ随分と多くの無明を用いなければならないのだとなれば、少々骨だ。
無明はそもそも人間どもを払うために作られた術であり、強靭な何かを引き倒すためには作られていないのだから。
手の中にあった紅の玉を懐にしまい込み、腰降ろしていた屋根の上から立ち上がってかぶりを振る。
こうすればここから供給される魔力が途切れ、無明の生成は止まる。
ただちに霧が晴れるわけじゃない、あそこには魔力の残り香が漂い、それが完全に消えるまではまだかかるだろう。
だからそれがあるうちにここを立ち去りましょう。彼女とまともに喧嘩をするなんて、さすがにごめんです。
「誤算ですねぇ」
貴女がそのように誰かと語るなんて。
だからこそ私は貴女をどうしても許すわけにはいかない。
ジャハブの障害となった貴女を、私は
「っ、馬鹿野郎! ふざけんな! 俺を殺すつもりか!」
「そういったはずだが。 嫌なら当たっても死ななければいいだけだろ」
「あぁそうだな。 俺も訓練すればメタルジェットに耐えられるようになるか?」
「試してみるか?」
「お前よりこの白もやもや野郎の方と友達になりたい」
……
しかし一体あれはなんだ?
まるでカリオテがあの者を殺そうとしているようにも見えるが
はてさて、まったくもって理解できないものである。




