【S8】残された者たち
「……はっ」
「気が付きましたか、ジスト」
今朝、私が教会の前の掃除に出た時、思わず悲鳴を上げそうになってしまった
「ジストったら、教会の前で倒れてるんですもの、驚きましたよ」
「パ、パラダ様!」
どうやらただ気絶しているだけらしいとわかったから一安心だったけれど、その後こうして看病しながら起きるのを待っているのは少しだけ退屈でもあった。
「一体どうしたんです?」
「……あいつ!」
ジストはベッドから飛び上がると、立てかけてあった彼女の剣を手に取り、今にも飛び出さんという勢いで髪を乱す。
「お、落ち着いてジスト。 あなたは倒れていたのですよ、無理をしてはいけません」
「しかし聖女パラダ! これが落ち着いていられる状況ですか!」
このジストの慌てようはただごとではない。
ただジストが慌てている時というのは必ず何か厄介ごとを引き込むのだ、出来れば落ち着いて、もらいたいのだけれど。
「一体何があったのですか?」
「あいつ」
そこまで聞いてようやく気が付いた。ジストの言っているそのあいつが誰なのか。
確信はないけれど、なんとなくそれが彼のような気がしたから。
「あいつ、一人で王を助けに行ったんですよ!」
その言葉を聞いて思わず崩れそうになる。
「じゃん……ジャンパーさんが!?」
「えぇ……えぇ! まったく!」
あの人は私たちとは違う、どこか異邦の、それも私たちの想像のつかないような世界から来たような人だとは思っていた、いたけれど。
「あまりにもムチャです……!」
王城の兵たちですら手こずる野盗相手にたった一人で立ち向かうなんて、命を捨てにいくようなものでしかない。
「女王に謁見した時にそう王命をたまわったようで……
あぁ、何で! 信じられますか!私がどこに行くのか聞いたら“あぁ、お前らの間抜けな王を助けにな”って……そんな言い方あります!?
これから一人で死にに行こうとしてる人間が!」
それでジストが彼に食い下がって、恐らく気絶されられこの教会の前に置いて行かれたのだろう。
「私は一刻も早く合流して、王を助け出します」
「ジスト」
「なんでしょうか?」
その事実を告げるのは、胸が痛んだ。
「現在シャインガルは完全封鎖令が敷かれています」
「……何です?」
「誰も街を出入りすることはできません」
昨日発布されたその戒厳令、あまりに急なことで城下でも様々な憶測が飛んでいるのを知っている。
ただ今となってはなぜそれが敷かれたかなどはどうでもいいことだと思う。事実として私たちにあるのはただ一つだけ。
「……神よ」
この壁の向こう側、手の届かない世界へ行ってしまった彼を、どうかお守りください。
私にはこうして祈ることしかできないから。それでも無事をと願わずにはいられなかった。




