【17】雪中
俺たちだって腹は減る。
ネジを回せば動き続けるような機械じゃない、働けば働く程疲れるし、空腹はジリジリと体を焦がしてくる。
まだまだ山のようにつもり白いクソの山を横目に、俺たちはみなそこらに尻をついて体を休めていた。
みな手にはそれぞれ穀物を固めたもの、パン、肉など持ち……焚火を起こしてスープを温めてる連中もいる。
「まったく」
これでようやく工程の半分程度とは、まだまだ街は雪に埋もれてその姿を消していた。
「雪国生まれの人間がボヤくのもわかるな、こんなもの羨ましがるもんじゃない」
最初は確かに俺も心が躍った、砂漠じゃ見られない光景だったし、何より幻想的な絶景を前に心震えない人間はいない。
けどしばらくしてその雪が忌むべき存在であるということは俺にもわかった、何せ下手をすれば家から出られなくなる。
交通にだって支障が出るし、それ以前にあちこち水浸しになるのだからたまったものではない、こいつは確かに白の死神だ。
これだけの労力を持って半日に及ぶ作業でも、半分の進捗とは。
「ボス」
「どうしたホフス」
そういって奴は手を軽く振る。
ようするにそいつは、拳を使ったぞ、というジェスチャーである。
「悪い、三人ほど再起不能にしちまった。 くだらねぇことで喧嘩してるからよ」
「……優しくしてやれよ」
本来ホフスにいくらかの処罰を下さなきゃならんところだが、俺は既にこいつに兵たちを預けている、だからこいつがそれを格別酷く扱うでもない限り問題には出来ない。
それが信頼し、指揮を任せるということだ。奴が必要だと思ったのなら俺はそれを支持する。
それはそれとして人員が三人減ってしまったのだから、その分作業は遅れるのだろう。
これはまぁ、俺の責任だ。もし本格的に支障が出るようならば改めて考え直すしかない。
とにかく
「……何やってんです?」
「ん? あぁ」
ホフスが俺の手元、机の上に置かれた羊皮紙を覗き込む。
奴と喋っている最中もずっとその上でペンを走らせていたのだから、気になるのも無理はないだろう。
「除雪具だよ」
「これじゃダメなんですか」
そういって手前にスコップを持ち上げるホフス。
確かにこいつは優れた道具だが、これだけじゃどうにも捗っていないのは今日の作業を見ればわかる。
「倉庫にある物資をいくらか使うが、そいつを使って効率化できるならそうするべきだ」
「そうですなぁ……まっ俺には難しいこたわかりません、おまかせしますわ。 それじゃ戻ります」
「おう」
とにかくこいつは問題だ、なんとか改善できるのならば、そうしなけりゃならん。
このまま毎日雪と格闘し続けるのはとにかく無駄の毎日だ、兵の練度は下がり雪かき上手ばかりが増えて行ってしまう、そんな軍は嫌だ。
であれば……
「ん?」
ふと視線に留まった藍色と銀の髪。
遠くからでもわかるように俺たちのような人間は基本的に人間を特徴的な色で覚えることが多い、その次に傷やら身体的特徴だ。
そこからいくとこの色合わせは見間違いようがない、俺が先日知り合ったばかりのそれ。
それが
「なんだぁ?」
「公の新しい女だろ」
こっちに向かってまっすぐと歩いてくる。
「……」
とてつもなく嫌な予感がして席から立ち上がり、その場を離脱するための姿勢を整えようと…
したのだが、雪の路面だ、完全に接地させなかった俺も悪いのだが、立ち上がろうとした瞬間地面を滑り危うく足首を捻りそうになった。
そんな状態だから、当然のごとくそれから逃げられるわけもなく
「……」
「……」
中途半端な姿勢で、まっすぐと起立した奴と俺は正面から向かい合う。
一体何の用だってんだ。
「貴様」
「なんだよ」
その表情にはどこか軽蔑するような色。
なんだ、俺が一体何をした。
「二人と結婚するなど恥ずかしくはないのか、恥を知れ!」
「……」
そっかぁ~~~~
それかぁ~~~
それを今怒られるかぁ~~~~~




