【10】追随
まぁ、城下で泊まれる宿でそこそこの場所、というとそれほど数は多くない。
だから場所については目途がついていたし、この慣れた道を歩くのは真っ暗闇だろうがトラブル無しの道中だった。
「平気か?」
「あ、あぁ、はい。 もう大丈夫だ……です」
背負っていた荷物を近くのベッドに降ろしてから、近くにあったランプに点火する。
暖かなオレンジの光が辺りを照らしだすと
(……なんだあれ)
何故か部屋の隅へ雑多に置かれた丸太が見えた。
まぁ他人の生活にあれやこれ言う気もないから、それは見なかったことにして、近くにあった布団らしき布をとり彼女に渡してやる。
「ここの夜は冷える、十分温めて寝ろよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
さて、とりあえずこれで俺のするべきことは終わったように思えるが、リレーア公としてはこの状況は看過できない。
治安が乱れるならそれを鎮圧するのも俺たちのような人間の仕事だ、いくつかローテーションを組み夜間の見回りをさせるとしよう。
ま、ぐちぐちと文句は出るだろうが、それはそれ、国から飯を食わせてやってるんだから、それくらいは働いてもらう。
「さてと」
そうと決まればここにいる理由もない、彼女らとゆっくりお喋りをしようっていう気を起こすにしても夜が深すぎる。
さっさとここから退散し、あの懐かしい俺たちの小屋に戻るとしよう。
三週間も開けてたからまずは掃除から始めないとな。タッツやスッティ達が戻ってくるまで俺は一人だし、どうにも億劫な話だが。
と、そんなことを考えながら部屋の外へと向かっている途中、ふと視線が会う。
当然ベッドに寝かせた彼女は背中側、この状況で俺の前に立てるのは一人だけ。
「……」
やっぱり。
(どうにも、因縁があるらしいな、彼女は)
俺の事をじろじろと嘗め回すように見ては、その驚き見開いた目を不躾に動かす。
ちょっとばかりくすぐったいが、彼女に声を掛けては「いや」とか「あぁ」しか返ってこず会話が成り立たないのをこの時間でよく理解している。
だからそれを避けて出口に向かおうと体を裁こうとしたのだが、彼女はそれに追随して俺の顔をじろじろと見るために位置を変えてくる、一体なんなんだ。
ついに出口まで付けば彼女も諦めるかと思ったが、実際にはそんなことなく、一人しか出入りできないような狭い扉に彼女が一人。
「あのなぁ」
「むっ?」
言ってしまえば道を塞がれている状態で、ここからどうすればいいか迷って頭を悩ませる。
無理に彼女を退かすのも、どうにも心が咎めたし、かといって彼女に退いてくれと言って素直に退くタイプだとも思えない。
「悪いがそこから出ていきたいんだが」
「そうか」
これだ。
そうか、あぁ、いや、そうだな……ここら辺が彼女の使える言葉らしい、相変わらず会話の成り立たない。
とはいえこんなところで足止めされてたら後でコニューに何を言われるかわからないし、パラダの逆鱗にまず間違いなく触れる。
しょうがない、ここは強行するしかないのか。
「いいか、よく聞いてくれ。 俺は今からそこから出ていく、そのためにあんたをそこから退かさなきゃならない、わかるな?」
「あぁ」
「よしじゃあ今からあんたをこっちに動かす、いいな」
「そうだな」
絶対わかっていないとは思うが、とにかく俺は行動しないと。
彼女の手に置いて"今からこっちに移すぞ"というジェスチャーをして、それから腰を入れて彼女を持ち上げる。
大層な装備の割に左程重くはなかったし、その間抵抗もされなかったのでそれ自体は上手くいった、俺の道はまっすぐと目の前に開けていた。
だから当然そこから出て行って、俺はようやくこの場から抜け出した
「……」
と思っていたんだが。
「……なぁ」
「なんだ」
この後ろから俺にぴったりと張り付いてくる足音が、一体どこまで続くつもりなのか
ただそれだけが誤算であった。




