【14】拝謁
さすがに。
(あいつらも馬鹿ではないか)
全員この場を後にしたかと思いきや、こちらの見えない位置からぞろぞろとまだ護衛の連中が出てきていた。
こうなればもはやとるべき手段は一つ。
「っ、なんだ!?」
強硬突破だ。
「明かりだ、明かりをつけろ! 奴らは闇の中に隠れている!」
思ったよりも統率の取れている連中らしい。すぐに暗闇からの攻撃だと気づき焚火や松明を持ち、それを投げて俺をあぶり出そうとする。
落ち着いて一人一人無力化していくが、さすがに相手の数が多い。一体どこからこれほど湧いて出てきたのだ。
「盾を構えろ、盾だ、盾の壁を作れ!」
叫んでいた指揮官らしい男を光学照準の中心に捉える、さすがにこの距離ならば姿勢不十分の射撃でも十分に命中するもの。
もう一人、二人……三人。どれだけ無力化したとして彼らは恐れを知らない、闘争本能によって脳内に溢れるアドレナリンによって痛みも、恐怖も失っているのだ。
現に膝を撃ち抜いたはずの男が斧を杖代わりに立とうとして、バランスを崩して地面へと転げる。既にそんなことを三度も行っていて、常人ならば出血と痛みで失神してもおかしくないところを意思の力によって支えている。
こんな相手は厄介だ、何かのためではなく自分が戦いから戦う人間は引き際を知らない。無力化された男たちの体を盾に、徐々に彼らはこちらへと距離を詰めてくる。
この際中央に盾を並べて並ぶ彼らは無視したってかまわない。優先すべきは。
「っ!」
「いたぞ!!」
足元に転がり込んできた松明が俺の姿を闇から浮かび上がらせたのは間違いないだろう、すぐさまライフルを下ろして胸に取り付けられた手のひらサイズの榴弾のピンを抜く。
「取り囲め!」
ちょうど盾を構えた男たちの足元へ転がるように投げ、その場を後に森の闇へと姿を隠す。
しばらくして聞こえてきた炸裂音を、闇の中中腰になって移動しながら聞いていた。
(まずいな)
この騒ぎはすぐにあたりへ伝わることになるだろう。
今はまだこの十数人の護衛にすぎないが、あっという間に数十人にまで膨れ上がることは容易に想像ができる。
この夜の闇だから俺は逃げ出すことが叶うが、そうなれば今度は人質の安全が保証されない。
「なんだ、なんだこれは!」
どうする。退くべきか、それとも。
(……っ)
馬鹿なことを。こんな時に思い出すようなことじゃない。
そうだ、現場の人間は理性的に判断しなければならない、誰よりも冷静に、誰よりも合理的な人間であるべきだ。
「……っ! …! …!!」
彼らの声ももうずいぶん聞こえなくなってくる。おそらく俺が逃げた方向とは真逆の方へと向かったのだ。
「あんたが」
まさか。
「アーニアル二世か」
逃げるどころか彼らの懐へと入り込んでるとは、夢にも思わなかったのだろう。
「……」
結局情感に流されて動いたことが功を奏したわけだが、やはり自分が嫌になる。
感情を捨てきれずに流される人間はいつか必ず仲間を危険に晒す、それが戦場というものだ。
「俺はあんたの母親から救出するように依頼された、すぐにここを出たい。 動けるか?」
一向に答えの返ってこない檻の闇に、近くにあった松明で光をともしてみる。
(……まずったか)
そこにいたのは想像通り、黒髪中年、少し太り気味の男……というわけではなかった。
あっていたのは、あの母親から伺える黒髪という点だけ。
「余が」
中年どころではない、その青年は
「アーニアル二世である」
俺と同じくらいの年齢だと思えた。




