【13】Operation Ready
あまりスマートな方法ではなかったとは自分でも思っている。
「おやすみ」
結局今の彼を含めて六人も無力化する羽目になってしまったのは正直言ってよい手順ではなかった。
しかしUAVや衛星、航空写真の支援なしで尚且つ単独潜入ともなればいくらか不細工なのは仕方あるまい。
ぐったりとして動かなくなった彼の体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちるのを助けてやってからその場を離れた。
(向こうの方角か、警備が厚いな)
暗い森の中、通常なら見えない距離であるが、俺の顔にマウントされた“NOBAG-11”のお陰で彼らの動きが手に取るようにわかる。
GPNVG-18を参考にした四ツ目型の暗視装置で、ロシアのナイトオプニクス社が開発した個人用暗視装置なのだが、これが西側製よりかなり使いづらい。
まず米軍の最新モデルであるWINVG-21より800gも重く、それに操作性もあまりいいとは言えない。どうせならそこも完全にパクってくれればいいものを。
それになんだかよくわからない部品がいくつもあって、手引書を何度読んでもこの取っ手が何をするものなのかがわからない。もしかしてキャリングハンドルなのだろうか。
しかしまぁその分チラつきが少なく、湿地や寒冷地での運用にもかなり信頼のおける性能をしているし、俺たちの任務の性質上身元のバレるようなものは使えない以上仕方あるまい。
(……まいったな)
さっきの彼から教えてもらった通り、どうやら王は確かにそこにいた。
といっても王の姿が見えたわけではなく、背の高い鉄製の檻が見えて、その周りを複数の男たちが取り囲んでいたからだ。
(五……六……七……くそっ、十二人はいるな)
真正面から戦っても恐らくこちらが勝つ自信はある、相手は未文明人、こちらは現代兵装だ。
真っ暗な夜の森の中、こちらは暗視装置を付けた上で消音化されたライフルを装備している。はっきりいってやろうと思うなら気づかず全員眠らせることだってきるだろう。
だがそれは正直言ってあまりやりたくはない。純粋にこれから先補給の目途が立たない弾薬をあまり使いたくはないないし、十二人を誰にも気づかれず始末するというのが非現実的であるからだ。
そう思えば俺はすぐに次の行動へと移ることにした。地面に伏せていた体を起こすと、音の出ないように慎重に足を入れ替えて今いる場所の反対側へと移動する。
(夜明けまであと四時間……)
あまりもたもたとしてはいられない。既に六人を手にかけている以上、途中で放棄して逃げ出すことも許されない。
一番端の方で警戒に当たっていた男の後ろから、音を消し忍び寄り彼の体を土の中に引き倒す。
口元に手、胸にはナイフが横倒しに突き刺さり、暴れようにも状況を理解できず彼はすぐに力を失った。
これで残り十一人、彼は必要経費といったところだ。
(……よし)
白のカバー、といっても暗視装置なのでなんでも緑色に見えるのだが。
細い筒状のテルミット焼夷弾、サーメートを彼の体に括り付け、そのピンにワイヤーを括り付ける。
派手な火の手があがるように発煙筒も二本、そのまま彼の体が斜面を転がるよう蹴りだしてやって俺は今来た道を戻っていく。
少々ワイヤーの長さに心配があったが、杞憂に終わり彼の体がどこかへと引っかかったのを手元で感じた。
残りの十一人の男たちはまだ何も気づかぬまま、いつも通りの談笑に耽っている。緊張感などまるで存在しないその空間はなんともほほえましい。
“こちらジャンパー、これより行動を開始する”
いつも通りの報告、口には出さないが仲間たちに伝えるその言葉を呟き、ワイヤーの緊張を高めた。
深く息を吸う。そして吐く。
(行け)
右手で手繰ったワイヤーを思い切り引っ張ると、ワイヤーの先で何かが引っかかり、そしてすぐに引き抜かれた手ごたえを感じさせる。
「おい」
さすがにたるんだ彼らだといえ、夜の闇の中に現れたその激しい光、そして音は興味を引いただろう。
「武器を構えろ! 武器を構えろ!」
男たちの雄叫びと、熱によって膨張し破裂する圧力の音が静かだった夜の闇に響く。
鉄の檻の前にいた男たちはそれを確認するために次々と武器を手に持ちその場を後にしていき、最後に残ったのは俺ただ一人だけとなった。
(戻ってくるまで三十分といったところか)
時間はない。
朝が来るまで、もうそれほどないのだから。




