【29】決断
PPPP-PPP.
"Prior Proper Planning Prevents Piss Poor Performance"の頭文字を合わせて"7Ps"と呼ばれる。
"うんざりするような状況は事前の適切な計画によって避けられる"
「……」
俺はどこでこの言葉を忘れた?
Prior Proper Planningを忘れていた奴に降りかかったのは、まさにPiss Poor Performance。
「ナオヒサ」
「……」
俺をじっとりと見つめるその瞳は言外にふざけることを許さない。
「答えて」
答えたくない。それを言ってしまった先にあるのが何かわからないわけじゃないから、俺は答えを引き延ばし続けた。
勝手な人間だなんてこと自分が一番わかってる。それが他人に忍耐を強いてることだって、十分わかってる。
だがそれでも俺は。
「コニュ……」
「ナオヒサ」
コニューがより体を密着させてきた。
きっと俺が誤魔化そうとしたのを感じ取ったのだろう、言葉を遮られていよいよ俺は逃げ場がなくなる。
彼女は答えを求めてる、その結果の如何に関わらず、真実を求めているのだろう。
考えてみれば俺はいつも逃げてきた、いやきっとそれは俺だけじゃない、砂塵の中で過ごす俺たちにとってそれが当たり前だったから。
人間と、他人と深いところで結びつくということからずっと逃げてきた。
それは恐怖から出たものなんだろう、明日いなくなるかもしれない俺たちにとって他人の顔を覚えるという事は、互いを鎖で結んでしまう。
だから余程のこと、家族以外の人間に入れ込むことは、自然にタブーになって無意識のうちに避けてきたのだ。
親しい人間を作れば作るほど、硝煙立ち込める世界では心をすり減らすだけなのだから。
「……俺は」
だから俺は答えられない。答えたくない。
俺という重しを誰かに括り付ける様な真似をしたくないから、俺は。
「コニュー、俺は、答えられない」
「……」
泣きそうに歪むその顔を抱きかかえてやる。
「お前がどうとかいうんじゃない。 俺は誰の気持ちにも答えられない」
「なんっ……で……」
「不幸にするからさ」
せっかく泣き止んだはずの涙がまたぼろぼろと零れて、その小さな体は俺の胸の中で小刻みに震えた。
「聖戦士だなんだなんて持ち上げられてるが、下らん人間だ。 誰かを幸せにできるような未来を描くことなんてまるで出来ない」
「そんなの……!」
「やってみなくちゃわからないか? わかるんだよ」
ことこれだけに関して俺には明確なビジョンがある。
「銃を取り上げられた俺がさ、一体何してたと思う? シューティングレンジに通って、結局ずっとライフルを握ってた。 笑えるだろ?」
もらった休暇のうち本当に休んだのなんて二日もない。あとはずっと基地での生活とほとんど変わらないような生活をしていた。
それを話したらチームのみんなに笑われたさ。
それと同時に俺はわかった。
「何にもないんだよ、俺には」
本当に何もない、ネジ巻き式の機械のようだ。
目的のために作られて、使われて、壊れるまで動き続ける。
ただそれだけ。
「忘れてしまえ」
「出来るわけないじゃん!!」
俺にあるのは掠れて乾いた砂漠だけ。
俺たちの背中にあるのは、延々と続いていく荒野と倒れた人々。
俺たちが行くのは、数多の薬莢で作られた酷く頼りない道だから。
だから
そんな道に、誰かを連れていくわけにはいかない。
それ以上俺にできるのは、泣き続ける彼女を背を撫でながら、ただただ沈黙を守る事だけだった。




