【26】寄道
お、思わず逃げ出してしまった。
だってどんな顔して会えばいいかわからない。
「……はぁ」
王様からあんな話をされてしばらく家に引きこもって考えていた。
けれど答えなんか出るわけもなく、どうすればいいのかもわからずただ時間だけが過ぎていって、ようやく外に出てナオヒサを探してみたけれど、いざとなったら逃げだしてしまう。
何一つ物事は解決せず、誰かに話すことだってできずうんうん唸ってみるけれど目の前の小川一つ僕の思い通りにはならない。
リレーアの外壁の外にある森の中、足をそろえて座った僕は無力にただ溜息だけを吐き出す。
(どうしたらいいんだろ)
ナオヒサに相談したい、正直に言えばそういう思いはたくさんある。
ナオヒサに正直に話して、そうすれば僕を引き留めてくれるんじゃないかって、そう思うからここにきた。
きっと僕一人で悩んでいても、これは一生答えの出ないことだろうから。
でもいざとなったらなんだか怖くなってしまって逃げ出してしまった。
ナオヒサがこっちに来るとわかったら、自然と体がここまで来てしまって、途方に暮れている。
何が怖かったんだろう。
(あぁ)
ナオヒサに引き留めてもらえない事が怖かったんだ。
僕の事をナオヒサが気に掛けていないって、そうはっきり言われてしまうことが怖い。
わかってるさ。ナオヒサはパラダに惹かれてる。僕だってそれくらいわかる。
けどまだそれは言葉になってない、ナオヒサだって自覚してないかもしれない。
だったら僕にだってまだチャンスはあるはずなんだ。
だから怖い。
僕の事を相談したら、ナオヒサにそれを自覚させてしまうような気がするから。
……
結局どうすることもできない。
これからどうなっちゃうんだろ。
結婚しなかったらリレーアは凄くまずい事になるのはわかる。けど、したくない。
でもしなかったらダグレイス家は……
あーもうぐちゃぐちゃだ。何を考えていいのかわからない。
相変わらず身勝手に流れ続ける川を眺めながら、近くにあった石を拾って投げ込んでみる。
それは水柱をたてて少しだけ波紋を生じて……
「何やってんだお前」
後ろから聞こえてきたその声にびくりと肩を震わせて振り返る。
少し気だるげに近くにあった木に肩をかけながら僕を見下ろすその目は、少し不思議そうな色を写しながら何度か瞬く。
逃げなきゃ。
ほとんど条件反射で動こうとした体は立ち上がろうとするけど、ここが川辺なのを忘れていた。
足をつけていた土は水で濡れていた泥。
横滑りするように靴底は逸れて
「わっ!!」
「馬鹿野郎!」
バランスを失った視界は森の中をぐるぐると回り始めたのだった。




