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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Booby Blossom
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【22】気象

「……」

「……」


 この国で行われる死者への儀礼というのは主に黙祷だ。


 ただ黙って既に見えなくなってしまった人々の魂に向けて祈りを捧げる。

 脳裏に浮かぶのは彼らとの思い出……といっても俺が見知っているのは一人だけだが。


 俺とアーニアルはしばらくダグレイスの墓前でそうしていた。

 吹き抜ける風の音だけが言葉の代わりにこの場に打ち鳴る。


「さて」


 先にその均衡を破ったのは奴の方。乱れた髪を軽く整えながら、アーニアルは近くに置いてあった椅子に座る。

 ここまでわざわざ従者に持ってこさせたものだ、王が座るには質素なものだが、この丘まで運んでくるのには一労力の代物。


「これで落ち着いて話ができるな」

「部下にも聞かれたくない話か?」

「不必要に情報を漏らすな……と言ったのはその口だったと記憶しているが?」

「そうだったな」


 アーニアルに機密保持の大切さを綴ったのは俺だった。

 さて、そういうことならここから先にあるのはそういう内容ということになる。


「南部の意思はまとまった。 今一度出兵しヨルツと対峙し、これを討ち破りタイパードベルトの国々を解放する」

「タイパードベルト……中部の国々か」

「あぁ。 バイバレスだけではなく多くの都市群がヨルツへと隷属している」

「しかし凄いもんだな。 この短期間で連中の意思を統一したのか?」


 そういうとアーニアルは少しだけこちらに視線をやり、細長く研がれた目を更に細めた。


「お前のお陰だよ聖戦士様」

「俺の?」


 ピンとこない話だ、俺はご存知の通りずっとここで戦っていたのだ。

 もちろん政治に関わる時間などなかったし、アーニアルに助言などした覚えもない。


「聖戦士の庇護を受けられると知ったらやつら地面を這うような勢いで私に媚びてきたぞ! まさに愉快、貴様にも見せてやりたかったほどだ!」

「はぁ」


 こいつの性格の悪さは一生もんだな。

 愉快そうにそう諸国が頭を垂れてきた様子を語るアーニアルは驚くほど純粋な笑みを浮かべ体を小刻みに揺らしていた。

 よほど痛快だったのだろう、こいつのこんな大笑いは初めて見た。


「で、他人に頭を下げさせた体験談はよしとして……これからどうするんだ? 俺たちもその軍に合流するのか?」

「そうだな。 お前の残していった連中……誰だったか」

「デルフ」

「そう、そのデルフだ。 あいつが鍛えた連中は相当使えるようになっているぞ、私も見せてもらったが大したものだ」


 どうやらデルフの奴は俺が残していったメニューをしっかりとこなしているらしい。

 実戦経験がある分俺のチームの方が実戦向きではあるが、その分体を磨き続けた連中も確かな戦力になるはずだ。


「だからこそ貴様らも戻り兵を鍛えてほしい。 これから大戦争になるぞ、優秀な兵士はいくらいても足りない」

「そうか」


 まぁ妥当な線だろう。

 俺のトレーニングは槍や剣を扱うものじゃないが、余っている銃器はそれなりにある。

 そいつを扱える人員を増やすのは必要な事だ。


「まぁ細かい事は後で決める。 とにかく私はリレーアにこれから駐在し対ヨルツの陣頭指揮を執る」

「……人気取りか」

「ふふ、そうだな。 私に反感を覚えているものは未だ多い。 こうしてここに来ることにより、王より遅れて戦場に来る臆病者共、という不名誉を取り返すのに必死になってくれれば良いのだがな」


 ま、どうせ俺が何を意見することでもない。俺はひたすら必要な事を必要なだけするだけだ。

 元からアーニアルような言葉のやり取りを行うようには作られちゃいない。


「お前の求めるアレ」

「アレ? QRFか」

「それ。 私にはそのようなことはわからん、好きにしろ」

「いいのか、勝手に軍を編成して」


 俺の感覚であればただの一兵士が軍団を編成し兵を動かすなど、行き過ぎた越権行為だと思える。

 現地の民兵を組織するのだってこの規模になればもっと上の支持を仰ぐ。


「私に軍才がないと散々罵ったのはどこのどいつだ」

「まぁそれは仕方ないだろ。 実際なかったし」

「こいつ」


 実際のところ俺が取り仕切るのが一番マシなのか、仕方ない。


「任務の性質上人的資源の摩耗が酷い。 常に多くのプールを確保しなければこいつは機能しない」

「わかっている、貴様の必要とする分だけ要求しろ。 人ならいくらでも送ってやる」


 それだけ言うと立ち上がり、言外に話は終わりだと俺へ伝える。


 そそくさとこの場から立ち去ろうとするあいつを送るために俺も肩並べて歩き出す。


「あっ」

「とっ」


 突然立ち止まるアーニアルに俺もその場で靴底をなぞらせた。


「忘れていた、ダグレイス殿のご息女は?」

「コニューか?」


 忙しい奴だ。俺だけじゃなくコニューにも用事があるのか。


「ついでだ、連れて行ってやるよ」

「あぁ頼むぞ」


 どこまでも続くような青空に吹く風。


 俺たちの背中に吹き付けるその風に、一筋の雲がゆっくりと、ゆっくりと流されていくのが見えた。

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