【14】囚人
"お前たちはなんだ!?"
記憶の中で声が反芻する。
"最強だ! 最強の兵士だ!"
"お前たちは何だ!!"
"何にも屈しない、絶対の鉾!"
俺たちは最強の戦士だ。
不屈の鷲。
"俺たちは何だ!"
"101空挺!"
"俺たちは誰だ!!"
"第二歩兵戦闘旅団、75騎兵連隊"
そうだ。
(widowmaker)
空挺技術の習得のために一年俺はあそこにいた。
最強の兵士として、不屈の戦士として自覚を持つために、あそこでは日常的にこうした刷り込みを行っていた。
自らを無敵の存在だと自負し、どんな苦境でも折れず立ち向かうための精神を作るための訓練。
(俺は、widowmaker)
それが何で女なんて恐れる。
俺は無敵の101空挺だったはずだ。75th騎兵連隊、widowmakerだったはずだ。
「……」
大丈夫だイヅ、お前は誰だ、FLAGSだぞ。混迷極める中東で最前線にいた最精鋭だ、こんなこと
「イヅさん、はい」
「あ、あぁ」
パラダが俺に向かって食器にスープを掬って差し出す。
その有無を言わさぬ迫力に俺は当然のように口を開いてそれを飲んだ。
「ナオヒサ~、こっちもおいしいよ~」
「い、いや、コニュー。 ま」
「何?」
「はい」
今度は首を真反対に曲げて同じようにコニューの出すそれを食む。
待て伊津、お前は今決心しただろ。この両隣を抑えられ身動き一つ取れないから脱出すると。
そうだ、お前は十年という訓練で多くのものを得てきた。それはこんな危機を乗り越えるためのもののはずだろ。
「イヅさん」
「ナオヒサ~」
あえて言うなら、敵対勢力に捕まり拘束されるとこういう気分が味わえると思う。
両腕を両脇に居る人間に取られて、俺を拘束した二人は哀れな捕虜を挟んでにらみ合った。
「コニューさん、腕を離していただけますか? イヅさんが困っておられます」
「聖女様こそ離してくれないとデートに行けないなぁ? それとも人の恋路を邪魔するのがお仕事かな? 教会のかび臭い部屋で陰気な事してるとやることも陰気臭くなるね」
「部屋の外に出ないコニューさんよりカビ臭くはないですよ」
……。
「はっ? 何? 僕がカビ臭いって? いっつも死体臭い教会関係者よりマシだと思うけど?」
「そうですか、死体というのは花の香りがするんですねぇ~。 知ってました? 埋葬を行うのは専門の業者で我々は羊に祝福するだけですよ」
「へぇ~ありがとう勉強になったなぁ~。 じゃあシスター服からするのはその業者の臭いなんだねぇ~」
……。
おい、やめろ。俺をそんな目で見るな。
これは俺のせいじゃないだろ!俺は悪くないぞオーナー!
クソ、どっかに行け!
待って。待ってくれ。俺をこの状況で一人にしないでくれ!俺が悪かった!
あぁ、クソ!バカ野郎、何で"失せろ!"なんて視線で示した!
オーナーとミスカが消えた今ここに残されたのは俺一人。
いや正しく言えば二人。
「イヅさん、外に行きましょう」
「そうだね。 もう行こうか」
「え、い、いや」
何故なら
この場において、俺の意見というものは存在しないからだ。
「Yes,mom.」
二人の絶対者に連れられ、俺は足を引きずりながら店を後にする。
それは断頭台への道を進む男の気持ちに似ていたと思う。




