【11】最悪
俺は人間関係のあれこれを最近随分と学んできたつもりだ。
これまでずっとチームと、ネイサンの下でずっと保護されていたから、未熟だった俺のコミュニュケーション能力は否応なしに成長せざるを得なかった。
(だが)
しかし。
(これは)
どうしたものだ。
「……」
「……」
虎と竜に囲まれた、というのはこういうことを言うのだろうか。
俺は、この"シチュエーション"に対してこれといって訓練を積んでいない。
恐らくC-130からパラシュートで反政府勢力のど真ん中に降ろされて、そこからなんとかターゲットを切り崩せ、と言われた方がまだ気楽だと思う。
まぁ有体に言えば。
「おはようございます、コニューさん」
「おはようパラダ」
俺の目の前に女が二人。その間に起こっているのは"コールドウォー"。
核を間にアメリカとソ連が緊張を維持し、その時代人々はいつ頭上に核の一撃が降ってくるかもしれない恐怖におびえたという。
自由主義と共産主義、二つのイデオロギーの対立によって、二つの大国はテーブルの上で静かににらみ合う。
遠い過去の話だ。俺が生まれる、ずっとずっと前の話。
だが今それが現実となり、俺の目の前に起きている。
「コニューさん、研究の方はいかがなされたんですか?」
「今日は休みなんだよ、毎日やってたら気がめいっちゃうしね。 パラダこそ教会の仕事はどうしたのさ」
「ご存じなかったのですか、今日は聖なる加羅の夜。 お休みですよ」
二人とも表面上は笑っているが、その笑顔には酷く凍てついた空気がまとわりついて。
「今日はとてもいいお天気です。 普段外に出ていないコニューさんが出歩いては、御具合が悪くなるかもしれません」
「そんなことないよ~。 パラダこそ聖女様が出歩いちゃ危ないんじゃないの~、大事なお身体でしょ~?」
(一体)
一体何が起きてるんだ。
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現在から10分前―――
リレーア内部 中枢居住区 分隊司令本部
イヅの部屋
しばらく暇になった人間にとって朝の時間というのは至福の時間でもあり、困惑の時間でもある。
「うーむ」
さて何をしたものか。
チームとの訓練をするのもまだ時間があるし、体を休めるという目的であっても時間を持て余してしまう。
トレーニングに費やしてもいいが……一日にあまり体をいじめたところで効率はよくない。
じゃあ何をするかといえばこれと言って思いつかず……さて。
と思ったところで部屋の扉を叩く音がする。
「誰だ?」
こんな朝っぱらから。
「あの……」
「パラダか」
腰かけていたベッドから離れ扉を開けてやる。
「あ、あの」
しばらく声が出なかった、というか。
「よ、よう」
「おはようございます」
扉の前に立っていたのは、パラダはパラダだったのだが、その。
有体に言うならば、服装と髪型が大きく違っていた。
「どうした、それ」
「……」
いつものパラダは白い修道服、あるいは紺のものを着用していることが多い。
後は寝るときに着用するネグリジュくらいか。
それがどういうことか、今日パラダが着ていたのはいかにも女の子らしい、ふりふりとしたレースのついた肩だしウールのクロップドトップスを青いのドレスの上からかぶっている。
いやまぁ、知ってたし、今更改めて言う事でもないが。
(かわいいな)
多分こういうのが年頃の女子というものなのだろう、可愛さを求めて身を整えるということに一生懸命になる年頃。
「あっと、お茶でいいか?」
「はい」
このまま部屋の扉を挟んで話すのもなんだ、邪魔をしていた自分の体を退かして、近くにあったティーポットを持ち上げる。
パラダは目いっぱいめかしこんできたらしい。いつもの彼女より随分といい香りがした。
「……今日は早いな。 何かあったか?」
「いえ特には」
その恰好で特にはってこたぁないだろう……とは思うがそこをどうこう言うつもりはない。
彼女に茶を差し出しながら、俺も近くにあった椅子に腰かける。
引いた茶を冷やして保存しておいたものだから味の方は少々落ちるが。
「……あ、あのイヅさん?」
「なんだ?」
茶をすすりながら、俺も外に出るための準備をいくらかしていく。
「今日……お暇……ですか」
「あぁ。 仕事もしばらくないからな。 暇すぎて死にそうになってたところだ」
きっとこれは、お誘いだろうから。
「あ、あの!」
「あぁ」
真新しいシャツに腕を通し、ジャケットを肩に掛けて。
「今日は私と一緒にでかけ」
「おっはっよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
あぁ
その扉は、元気よく開かれたさ。




