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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Booby Blossom
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【10】努力

 間違いない。誰かがいる。

 朝の光の中で霧は静かに漂い、俺の吐く息もそういう風を帯びて、酷く白く濁るはずだ。


 だから目一杯顔に引き上げたストールを鼻に掛け、手に握りこんだ拳銃の安全装置を弾く。

 一体誰がこんな場所に用事なのかは知らないが、もし銃に興味を持った悪戯小僧ならしっかり叱ってやらなきゃならない。


 闇が進む。霧の中を闇が進む。


 この裏だ、薄い壁の向こうから人の鼓動が聞こえてくる。

 呼吸音、足音、身じろぎ一つから出る空気の動き……、それらが全て影の動きを教えてくれた。

 一歩。また一歩、扉に向かい進んでいくその存在を感じる。まるで警戒していない足取りはこちらの存在を感知していないということを示す。


 その足音の主が、出口に立ち、ゆっくりと……ゆっくりと軋む床板を踏み込んでいき。


「……」


 俺は安全装置を掛ける。


「はぁ~~っ」


 拳銃を腰のホルスターにしまい込み、未だこちらに気づいていないその影と歩くタイミングを合わせ、数ミリずつ距離を詰めた。

 

 まるで無警戒なその背中に立つと……静かに、静かに彼の手首を取る。


「え?」


 急なことに対応できる人間というのはそういない。訓練を行っていなければなおさらだ。


 俺は彼の手を回して、無理のある角度を維持しながらそのまたぐらに足を差し込み、彼の上体を折る。


「おわっ!?」


 基本的な拘束だが、基本的があるゆえに決まってしまえば解けることはない。


「何やってんだ、スッティ」

「そ、そりゃボスでしょ! 痛い、痛い!!」


 俺の下で体を無理な方向に曲げられて痛がるスッティを見ながら、徐々にその拘束を解いてやり、彼の体を押し出してやる。


「ここに通りかかったら扉が開けっ放しだったんだ、そりゃ見に来るだろ」

「あっ」

「何やってんだお前は」


 見てみれば手にはモデルガン、訓練時の恰好と同じ姿でスッティは立っていた。

 リーサルウェポンは俺が全て管理しているが、ノンリーサルであれば彼らにその自由を許しているから、それがスッティの手元にあることは特に問題はない。

 だが訓練はあと三時間後だ、早めに来ているというには随分と早すぎる。


「……べ、別に」


 そういってスッティは視線を逸らす。


「スッティ、軍の規律とは?」

「……上官の命令には絶対服従」

「ここで何をしていた?」


 立ち止まったスッティの背を押してやり、出口に向かって横並びに歩く。

 その間にもスッティはどうにも言い辛そうに落ち着かない様子で


「……練習」

「一人で? キルハウスを使って?」

「そうです」


 ぶっきらぼうにそう答える。


「何でそんなことを。 タッツに対抗心でも燃やしてるのか?」


 別にスッティが特に落ちぶれているというわけでもないし、特に室内戦が得意という事もない。実に平均的な能力だと思う。

 だからスッティがそんな努力をする理由がわからないといえばわからなかった。


「……」


 そしてその理由がどうもスッティにとって言いづらいことなのだろう。

 その理由を言おうとすると、スッティは口を中途半端に開いては言葉を作れずにいた。


「俺」


 ようやく言葉になったらしいその理由。


「俺、タッツみたいになんかできるわけでもないし。 ホフスみたいに強くもないし……タンガみたくタフでもないし、グローアは物知りだろ」


 あぁ、なるほど。


「それで一人でトレーニングしてたのか?」

「……そうですよ」


 恥ずかしそうにそういって顔をそむける彼。

 なるほど、そういう劣等感なんて抱えてたのか。


 確かにスッティはこれといった特徴がない、特技もない。チームにおいて中庸な存在と言える。


「馬鹿」


 そんなこと気にしてたのか、こいつは。


「次からは俺を呼べ」


 そういって彼の背を叩いてやる。


 スッティは確かに能力だけ見ればこれといってみるべきところはない、そこは否定しようがない。

 だがその反面スッティはどんな状況でも心折れることなく食いついてくる。ホフスやタッツはすぐに弱音を吐くが、スッティは軽口を叩くがどんな時も前向きに取り組む。


 こういう男は部隊に必要だ。どんなに苦しい状況でもスッティがいるだけで前に進むことができる。

 いわゆる、ムードメーカーだ。だから俺は彼を選んだ。チームに必要な人材だと思ったから。


「そんなこと言って」

「なんだよ」


 そろそろ出口というところで、スッティがこちらへ向いて、少々目を細める。


「今日も朝からデートしてたくせに」

「えっ」


 そういってスッティが視線を流した先には、パラダがいた。

 急な事で、心が準備できていなかったのだろう。そのスッティの軽口一つに顔を真っ赤にして。


「で、で、で、デートじゃなくて」


 あっ、まずい。


「きょ、今日は一緒に寝てただけです!」


 思わず顔を覆う。


 まぁ確かにそれは事実なんだが。





 恐る恐る手を開けば


 指の向こうからこちらを白い目で見るスッティの顔があった。

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