【B2】戦士
☆初めてブックマークがついた記念
私は戦士だ、どうしたところでこれ以外の生き方を知らない。
だから誰よりも強く、誰よりも誇り高く、誰よりも剣に生きたいと、そう思っていた。
「ずるいぞ!」
「悪かったな」
だというのに、こいつはそんな私を軽く飛び越えてしまっている。
「なんだお前のその……それは!」
「魔法さ、便利だろ?」
「また私を小馬鹿にして!」
もっと勇猛だとか、歴戦の将だとか、貴族だとか、そういうのなら私より強くても納得できる。だって彼らは戦士だ、当然だろう。
だがこいつはどうだ、あの手に持っている不思議なもので、体だって私より小さいのに、私よりはるかに強い。
これを卑怯と言わずにして何を卑怯というのだ!
「お前、私より年下だろ! もっと敬ったらどうなんだ!」
それに私にまるで敬意のないこの態度。いくらただの酒場で相席しているだけとはいえ、私はジストだぞ!
まるで緊張感のない砕けた座り方をして、視線をこちらに向けやしない。
「あぁ敬ってるさ。 ジスト殿、それとってくれ」
「あぁ……ほら」
机の上に置いてあった器を持って、あいつの前においてやる。
「……ちょっと待て、今いいように使われなかったか私」
「お前のそういうところ好きだよ、ジスト」
「ぐっ」
私は剣の腕ならば村一番で、その後もギルドに入っていくつも仕事をこなして十分な名誉も得た。
だからこうして騎士になるために人手の足りなくなった首都へ来るために、随分と苦労して聖女護衛の任務にありついたというのに。
「お前、私を推挙しろよ」
こいつはそんな私の苦労も知らないで、あっという間に女王へ謁見が許された。
「あぁ任せておけ」
それは騎士を目指すもの、全ての剣士にとって、王族に覚えられるという最高の栄誉だ。
それをこいつは、ここにきて一日たたず成し遂げてしまった。
「縄でつるされて下着丸出しでぶら下がっていたのがこのジストです、どうぞお引き立てください」
いちいち口の減らない奴!
「くそ、くそ……私も絶対あそこへ上り詰めてやるからな……!」
「がんばれ」
興味なさそうに器の中に入った飲み物で喉を潤すあいつの姿に、歯をむき出しにして抗議の意を示す。
こいつは私を馬鹿にして、コケにして、一体何が楽しいんだ。私は村では尊敬を集めた一番の剣士だったのだぞ。
「むっ」
無気力感で机の上に体を放り出した私の頭に、ふと手が触れる。
「悪かった、からかいすぎたよ」
「……私は年上だぞ」
「あぁ、年上のジストさんをからかいすぎた。 許してくれるか?」
まるで子供をあやすようにゆっくりとなでつけるその手は、小さくて、それでも力強さを感じさせた。
私を覗くその瞳は、まるで慈母のような慈悲が宿っているように思える。
「子供扱いをやめたら許す」
「あーはいはい、じゃあこれからはジストさんか?」
「ジストでいい」
別に、呼び方一つ変えられたところで何も変わりはしない。
そういうとあいつは機嫌をよくしたのか更に強く髪をなでつけてくる。
せっかくセットした髪をぐしゃぐしゃになるまでかき乱されてから、ようやく奴が酩酊していることに気が付いたが、
店から引きずりだそうとして机の上で関節を決められて拘束されたので当分許さないことにした。




