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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Red Storm Rabbit
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【41】再製

 俺が再び目覚めたのは、丸々二十時間寝てかららしい。



"おはようございます、イヅさん"



 ベッドから起き上がった俺をまず迎えてくれたのは声。

 俺の良く知っている光景が朝日と共に俺の目に入ってきて、俺はもう一度泣いた。


 暖かな涙を流してから、くたくたになった体を今しばらく休めてから、パラダの甲斐甲斐しい看病を受けつつ俺は現在のリレーアがどうなっているのかの報告を受けていた。



"つまり、イデの術は殆どリレーア全域にかかっていた?"


"そういうことみたいです"


"恐ろしい奴だな"


 この街の中で倒れていた人々は確かに一度死んだ。少なくとも脳がそう誤認する程度には、彼らは死んでいた。


 だがそのお陰で彼らを蝕んでいたウィルス……病原体、それらが一時的に活動を停止し……今となっては綺麗さっぱり消失したといっていい。

 仮死状態から蘇ることが出来た人々の誰一人として咳をするものはいなかったのだ。



 これには二通りの仮説が立てられる。


 一つは極度に低温に弱く、この感染の原因は人々が仮死状態による低体温により死滅したとする考えだ。

 これが最も合理的に考えられる原因だが、少々不合理な事もある。


 一つは人々の体だけではなくこの街の中全域から疫病が一層されていること。

 低体温を原因だとするならこれはいかにもおかしい、リレーアは洗浄されていない、自然消滅したとも考えにくい。


 二つはこれが街へ流入したのは水源を使った可能性が高い事。山の辺りは随分と冷え込む、耐冷能力がない感染源が生き残れるような環境ではない。


 だからこの二つ目の仮説、こちらがどうにも信ぴょう性を帯びてくる。



 これら感染源が、ジェイメリと共に活動を停止したということだ。




 通常考えるだけでばかばかしいものだが、この世界でなら通用する理屈だろう。


 ジェイメリが司令塔となっており、それから送られてくる指令によって活動していた……ナノマシンとでも言うべきか?

 ま、実際SFに登場するようなものでなく、ナノマシンがそんな便利に動くわけではないから、考えるだけ阿保らしいのだが。


 とにかくこのリレーアからあの悪夢は綺麗さっぱり消え去った。

 まるで昨日までが嘘だったかのように、夢のように。


「イヅさん」

「ん」


 タッツがまとめた資料に視線を落としていると、ベッドの横に彼女がいた。


「起きてからずっとそうしてます。 少しは休んでください」

「性分だ」


 この状況でゆったり眠っていられるような人間ではない、ということは彼女も十分承知の事だろう。

 パラダは柔らかに溜息をつくと、ベッドの隣に付けられた小さな机の上に剥いた果物の入った小皿を置く。


「私は少し街をお手伝いしてきます。 いい子にしててくださいねイヅさん」

「俺は常に模範的な人間さ」


 そうだろう?と言わんばかりに彼女を流し目で見る。


「その間はジストがお世話しますので、何かあったら彼女に」

「……冗談だろ。 そこら辺の犬の方がまだ役に立つぞ」

「そんなことありませんよ、ジストも頑張っています」

「だといいが」


 ま、体もほとんど回復している、あいつに頼ることもないだろう。

 扉の前に立つジストに手を振り見送る。


「それじゃ行ってきま……っ」


 そういって開けようとした扉が途中で留まる。その向こう側に誰かが居たのだろう、パラダは途中で扉を押し込むのを止めて、扉の向こう側に感じる気配が引くのを待った。


「コニューさん」

「やっ」


 どうやら、来客らしい。


「聖戦士様がぶっ倒れてる珍しい姿が見れるって聞いてさ」

「あら」


 部屋の中に案内されたコニューが近くの椅子を引きずり、ベッドの近くに腰掛ける。


「それじゃあ私は少し出てきますから」

「あーあー、じゃあ見とくよ」

「お願いします」


 改めて部屋から出ていく彼女を二人して見送って、部屋の中には二人きり。

 まぁ近くにはジストがいるんだろうが。


「……こうやって落ち着いて話すのは久しぶりかもな」

「そうだね、時間としてはそんなに経ってないはずだけど」


 ダグレイスが死んだあと、コニューと共に軽く散歩して……コニューが俺の仕事をちょくちょくと手伝ってはいたが、軽い会話程度でじっくりと話すことなどなかった。

 あれから俺は特に忙しくなったし、彼女もそんな俺から洩れる仕事をよく片付けていたから、自然と深い話などは出来ないで今日まで来ている。


 といっても改めて何を話す事があるでもないが、それでも、貴重な機会ではあるか。


「聖戦士様さ」

「なんだ」


 俺になくとも彼女にはあるのかもしれないのだから。


「これから、どうするの?」

「……そうだな」


 俺の仕事は攻め込まれているリレーアの援護。そう考えるならもうそのタスクは処理できたように思える。

 だがリレーアは多くを失った、再建しようと思えば資材も人手もいくらあっても足りないくらいだ。

 その中で俺は特に多くの事が出来ると思う。

 特に精神的支柱になるというのは、俺にしかできないことだ。


 だがそれが叶わないことは、俺自身よくわかっている。


 今は戦争の最中だ。

 リレーアだけで時間が動いているわけではない。


 アーニアルの奴が俺にそんなわがままを笑顔で許すなんて、到底思えないしな。


「また次の戦場へ行くんだろうな」

「……そっか」


 俺の人生に休息なんて似合わない。


「父さんとの約束、破るんだ」

「それを言うなよ、耳が痛い」


 ダグレイスに義理立てしてコニューの事をずっと見ていてやりたい気持ちだってあるさ、当然だ。

 けどそういうわけにはいかない、ここは全体図の一部にしか過ぎず、他の場所も多くはリレーアと同じような状況に陥っているのはさして想像に難くない。

 

 俺は兵士だ。父親には、どうしたってなれそうにない。


「リレーアには残れないの?」

「この戦いが終わればきっと立ち寄る。 必ず」

「いつさ」

「なるべく早く」


 そう言って、会話が途切れる。

 二人して無言のまま、気まずいような空気が流れた。

 軽口の一つでも叩こうかと思ったがそういう雰囲気でもない。


「……」


 俺とコニューは言葉をなくしてしばらく見つめ合っていた。

 互いに理解しきっているから、わがままも、困らせるのもなし。


 俺は彼女に向かって軽く握った右の拳を突き出して見せる。


「血は繋がってないが俺たちは兄妹だ。 お前が困っていたら必ず俺が助けに来る」


 拳と拳を突き合わせる、Brotherhoodの誓い。

 コニューとそれを交わすために拳はまっすぐと彼女に向いた。


「ダグレイスに誓って、お前を守って見せる」


 俺は再び右の拳を強く握りなおしてみせた。

 海兵隊式の男臭い友情の証だが、これ以上の情の表現を知らない。


 後はコニューが俺の拳に拳を重ねてくれるのを待つだけ。

 不思議そうにその右の拳を眺める彼女を見ながら、俺はただ静かに待った。


「……」


 それから、コニューは少しだけいたずらっぽく微笑むと、俺の方に向かって体を寄せる。


「僕」


 影が重なった。


「兄妹じゃなくて、恋人がいい」


 俺の耳元で声を囁いて離れていくその影は、最後にもう一度こちらへ笑顔を向けて部屋から出て行く。

 ベッドに残るのは彼女の、少し薬品交じりの臭い。



 重ねられた唇に残る、柔らかな感触だった。



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