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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Red Storm Rabbit
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【39】罪魁

 変わらないな。


 街の中も、外も。


「……ひでぇもんだ」


 リレーアの街は……活気を取り戻したあの街は、今や俺たちが来たばかりの頃のよう。


 死神の暮らす街に逆戻り。


「ボス……ボス、しっかり!」

「大丈夫だ」


 膝から崩れ落ちそうになる俺をタッツが支える。


(……)


 地面が近くなった俺の視線には、彼らの死がよく見えた。

 まるで眠っているようだ。苦悩から、苦悶から解放されて、実に穏やかにな目を閉じる表情は、彼らが真の平和を手に入れたことを教えてくれる。


(遅すぎた)


 俺は間に合わなかった。


 彼らを救う事、彼女を救う事、それに寄り添うように眠る小さな子供が瞼を閉じる前に前に、ここに戻ってくることができなかった。

 もうその瞳を見る事ができない。


(わかってる)


 泣くな。

 泣く権利なんて、俺には無い。


 俺が選んだ。俺が、こうなることを知っていて、こうなることを、わかっていて。


「ボス」


 俺が人々の死を悼む権利なんて。


「着きましたよ」

「……あぁ」


 タッツの手が教会の扉に触れる。静かに開かれるそれは、まるで死んだ世界に唯一存在する音のように響く。


「タッツ、もう大丈夫だ。 ここから先は一人で行く」

「そんな」


 心配そうに声を上げる彼から離れて、俺は一歩離れて、作り笑いを浮かべて見せた。


「お前に寄り掛かったおかげで、随分と回復した。 前線に戻って死体運びを手伝ってやれ。 きっとホーフス辺りが愚痴っているぞ」


 タッツは眉を八の字に歪めながら、それでも俺の言葉を素直に聞いて今来た扉を戻っていく。

 何度も、何度も振り返りながら。


「無茶しないでくださいよ!」


 最後にそう言って消えていく彼を見送り、俺は深くため息を吐く。

 回復するわけがない。体は殆ど倒れる一歩手前、気力だけでつないでいる状態だ。

 いつ足を滑らせて怪我をするかもわかったものではない。


 だがそれでも。


「……」


 それでも


 こんな顔を人には、見られたくなかった。


「……くそっ」


 涙がこぼれている。

 抑えようと思っていたのに、感傷的になどなるつもりはないのに、それでも目からは確かに冷ややかな俺の感情が溢れていた。


 それ以上感情が揺さぶられないよう強く下唇を噛む、痛みで涙を抑え込もうなんて、バカ丸出しだ。

 だけど俺はそうするしかなかった。

 そうしなければ、ここで泣き崩れて歩みを止めてしまいそうだったから。


「ジスト」


 教会のベンチに寝かせてやったその姿はまだそこにあって、俺のかけてやった毛布もそのままで、彼女の姿はそこにあった。

 俺の知っているジスト・タインガムの姿は、そこに横たわって


「……すまん」


 唯一違うのは、あの騒がしさだけが失われていた事。


 とってみた手首は、まるで命の脈動を感じさせず、穏やかに眠るその顔は、きっともう二度と心搔き乱されることもない世界へと旅立ったのだろう。




 手が震えている。

 彼女の手を取った右手が、小刻みに痙攣して

 痙攣する右腕の上に、ぽつぽつと大粒の涙が落ちては、弾けた。


 静かに眠る彼女をそこに残して俺は立ち上がる。

 右手だけではなく震える全身を引きずりながら、俺は再び歩き始めた。

 膝が体を支えきれず倒れそうになる度に、両腕で這いつくばるようにして、再び起き上がり、みっともない姿をさらして進んでいった。

 身じろぎ一つせず眠りつく人々の脇を通りすがり、軋む床板を踏み、山のように高い階段を超えて、その扉の前に。


 この先には、きっと彼女がいるはずだから。


 ドアノブをゆっくりと時計回りに回して、いつものように俺はその扉を押し込んで、開く。

 その先にはいつものように彼女がいて、いつものように俺に微笑みかけて、いつものように、また馬鹿みたいに俺を焦らせるんだ。


 それが日常だから。

 それが、変わらない、この街の、風景だから。




"イヅさん。 おはようございます"



 いつも聞こえるその声が、今日は何故だか聞こえなかった。

 ベッドの上に感じる人影は、誰か来たというのにまるで動く気配もなくて。


 縋るように、祈るように、俺はその傍に近づいて、跪いた。

 きっとそれは誰かが見れば、ほとんど倒れるのに近かったと思う。

 ベッドにしがみついた俺は身を乗り出して、その人を覗くようにして、見つめて。


 静かに眠るその顔は、まるで天使のようだった。

 彫刻に掘られた、絵画に描かれた、美しい天使の像。人々が神を信じてた頃の、想像の産物。

 それが今確かにここに、眠っていた。

 彼女も、彫刻も……絵画も、動かない。


 耳を近づけた口元からは、もう彼女の声も、吐息も聞くことはないのだと、静寂が教えてくれる。

 朱色の頬は、もう二度と、その色を灯さないのだと。






















 喉が痛かった。




















————————————————————————————————————————————————————



「???」


 ぼくは、それがわからなかった。


(ナンデ?)


 せーせんしは、ないてた。


 ぱらだのべっどのそばで、おおきいこえ。


 すごい、ないてる。


(ナンデないてる?)


 なく。なくのはかなしい。

 だから、せーせんし、かなしい。

 なんでかなしい?


 ぱらだにむかって、ないてる。


(よくわからない)


 だって、なく、りゆうない。


 せーせんし、かなしむ、りゆうない。


(ぱらだ)


 せーせんし、ふたり、またおしゃべりできるのに。

 なくりゆう、ない。


「セシー」


 そでひっぱる。


 せし、かおふさいで、ないてる。きづかない。


「セシー?」


 きづいて。


 ぱらだ、ねてるだけ。



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