【37】帰路
戦場を支配するのは何だと思う?
人。兵器。力。
「say,hello my little friends.」
奴らが転がしていた馬車の中に俺の友達が転がる。既にピンは抜けているから、数秒後ちょっとした衝撃と共に浮き上がった。
これでまた彼らの帰る場所が一つ失われた。
突然何事もなかったモノが自分たちのすぐ傍で破裂する。
「Sitting Duck.」
隣で先ほどまで笑っていた仲間の頭が吹き飛ぶ。
彼らの世界は急速に崩れて行って、ふらつく足元は捕まれる。
「……ふざけんな」
目の前の男が槍を捨てた。
そしてリレーアを前にして、その背を向けて走り出す。
「おいどこに行く!」
「決まってるだろ!逃げるんだよ! ふざけんなやってられるか!」
「おい待て!」
「なんだよ」
目の前で二人の男がいがみ合う。
「俺も行く」
いがみ合っていたと思えた二人はすぐに和解すると、戦場を後にしてどこかへと消えてしまった。
あれは始まりに過ぎない。一度穴が開けばダムはもう水をせき止める事は出来ないのだから。
戦場を支配するのは何だと思う?
「右翼はもうすでにみんな逃げ始めてるぞ! このままここに居たら取り残される!」
感情。
「おい、待て! 貴様らどこへ行く! 待て!!」
怒り、恐怖、焦燥。
そんなものは人々に伝播していく。
「バランツ、食料持っていけ!」
「貴様ら!」
脱走の準備をしようとしていた兵士らを諫めようとした指揮官らしき男、彼は実に忠実で任務をまっとうしようとしたのだろう。
運が悪かったのだとすれば状況、彼に責任があるとすらば時勢を読めなかった事。
脱走兵をとりまとめていたらしい男に切り伏せられて、彼は地面に倒れた。
「運びだせ!」
咳の音がする。
実際に彼らがしたわけではない。いうなれば、彼ら自身が咳そのもの。
「とっととズラかるぞ!!」
彼らは病んでいた。
咳は彼らの喉から広がり、張られる声と引き下がる姿は徐々に広まっていく。
この病を治す薬は、存在しない。
「戦ってられるか! 将軍が死んだんだぞ!!」
この小さな破綻は、軍の手足から徐々に腐らせていき、いずれ神経を焼くことになる。
そのために俺は極めて最高の仕事をここまでしてきたと思う。
俺の通ってきた道はまるで雷の通ってきたような有り様で、彼らがそれに気づけばきっと喜んでくれるだろう。
俺は戻ってきた。
「……」
その城壁に穿たれる戦火の後を語る数多の死体たちの元へ。
弾薬の切れたライフルと、全てを失ったチェストリグと共に。




