【31】阻害
撃つ。走る。撃つ、走る。
「くっ! うっとおしい真似をするな、卑劣漢! 男ならば剣と剣で戦え!」
「死なないゾンビ野郎が言うな」
俺の射線に入ると奴はすぐに身をひるがえして近くの遮蔽物へと姿を消す。明らかにこちらの動きに慣れ始めている。
依然としてこの戦闘の優位性はこちらにあって、奴は俺に対して距離を詰められないでいるが、それは絶対のものではない。
俺の目の前には柵、恐らくこの先は何かしらの陣地なのだろう。まず間違いなくバイバレスのものだが。
四の五の言ってる場合じゃない、それを飛び越えて、テントだらけの地面を蹴り走る。
「そうか……そうだな、私は死なない。 これでは卑怯だ……」
「ついでに言えば貴様の怪力もクソったれだ」
「私は卑怯者なのか? あ! いや、卑怯だ! これは卑怯な戦いだな!」
「……今頃気づくなよ」
奴の方を振り向いて、今度は体を晒さず、吊り下げられた布に浮かぶ奴の影に向かって引き金を引く。
「おぅっ! ぐぅ、痛いんだよ、そいつは! いい加減にしろ!!」
どうやら奴が読んでいるのは銃口らしく、それさえ見せなければ奴は避けることができない。
正確に太ももを貫いたはずだが、それをかばってこちらに向き直る影を見て俺は飛んだ。
「……」
発砲した場所から身を引いて、隣にあった木箱の隣に身を顰める。
当然先ほどの射撃は奴も感知していて、こちらに向けられた足音はだんだんとその音を強めていく。
「イヅぅ!!!!」
勢いよく開け放たれた天幕から、怒り心頭といった様子の奴が飛び出してくることを期待して、木箱の上に安置させたライフルを今一度握りしめる。
ちょうど奴の横っ面が突き出た着た瞬間、息をのむ。
奴の顎から下が吹き飛ぶ。
鼻の先が削れた。
端正なその顔面がライフル弾の直撃を次々とくらい鮮血を辺りにまき散らす。
まったくグロテスクな光景だ。
怯んで体に射撃を加え奴の姿勢を崩すと、その怯んだ体に向かって走り出す。
奴は受けることもできずに俺の前蹴りを食らい、その体を後ろにあった荷物の山へと送り出してやる。
すぐさま隣に建てられていた柱をライフルで吹き飛ばしてやり、隣に積まれていた木箱もついでに蹴りつければ、奴の体の上に次々とそれらが降りかかっていく。
上半身を様々な荷物と埃に埋められ下半身だけになった奴の体からは、真新しい血がじわじわと広がっていくのが見える。
だがこれも時間稼ぎにしかならない。野郎があの程度で死んでくれるなら俺は最初からこんな苦労をしていないんだから。
すぐに踵を返して陣地の中を進む。馬でも見つけて逃げ切るか? いや。
(殺せ、なんとしてでもだ)
奴を逃がせば再び街に同じ手を使う、今度は俺だって感染するかもしれない。
(……どうやって?)
考えろ。
近くにあったテントに入れば、男たちこちらへ振り向く。恐らく次の出撃に備えていたのだろう。
考えろ。
テントの中に倒れた男たちはしっかりと脳漿弾けて倒れている。俺やこいつがおかしくなったわけではない。
だが奴は死なない。
SMAWで一撃加えておくべきだったと今更後悔したところで何が帰ってくるわけでもないのだから。
俺は見つけなければならない。
奴を殺す方法を。
奴が俺に執着している間に。
奴が戦線にもどり、リレーアへの突破を試みる前に。




