【30】死臭
考えろ。
考えろ。
まずはスッティだ。
「ボス!」
「いいから行け!」
こいつを逃がすことが一番に優先される。
「ぐぅっ……! やっぱりその弾は、効くなァ!!」
俺はともかくあいつは野郎とやり合えるような体術を覚えちゃいないのだから。
もし刃が交じり合うようなことにでもなれば、俺は奴を守り切ることはできない。
「さっさと行け!」
俺の弾が尽きる前に。
「必ず……必ず戻ってきますから!」
「あぁ」
立ち上がろうとしたジェメイルの右腕を砕く。何度目かわからない肉に銃弾の食い込む音。
恐らくこれが途切れれば、奴はすぐに俺へと飛びかかってくるだろう。
考えろ。
「イヅ。 イヅ。 イヅ。」
考えろ。この状況を、解決する手立てを。
「イヅゥ、私の骨が軋むたびに、貴様への想いが深くなる。 まるで穴の開いた器に注がれる血漿のごとく、その色は刻一刻と濃くなっていくぞ?」
血の海に沈めた人間を殺す方法など、俺は今まで一度も考えたことなどなかった。だから早々に答えが出るわけがない。
冷却材があればあいつを氷で閉じてしまえばいい、そう思える。だが当然ながらこの世界に、今の俺にそんな事が出来るわけがなく。
マガジンがまた一つ地面に落ちる。
「痛い痛い痛い痛いィ……お前にこれを返してやりたくて、私は震えている。 この素敵な思いをお前と、共有したいぃ……」
くそったれ。
拳銃の弾をありったけ奴にぶち込んで俺は背を向けて走り出す。
「今度は私が鬼か!?」
ジリ貧だ。このままじゃ俺はいつか奴に殺される。
体に括り付けたこの鎧が全て地面に落ちた時、俺の逃れられない運命が決まってしまう。
だからと言ってどこへ行けばいい? 奴が逃げようとした先に広がるのはただ広がり行く草のカーペット。
「あぁ、あぁ足が動くぞ! 聞こえているか、イヅ! 足が!」
走れ。とにかく走れ。
ここにいてはいけない。ここには何もないのだから。
……いや一つだけ確かなものがあるか。
「イヅぅぅぅぅううううううううううううう!!!!」
ここには、暗闇のような、死がある。




