【S3】路地裏の再会
外が随分と騒がしい、一体何があったのでしょうか。区間長様に聞いたところではぐらかされるだけだし。
結局隙を見て抜け出してきてしまった。
「あのぉ」
「なんだいお嬢ちゃん……って神官様か、なんです?」
「騒がしかったようですけど、一体何があったのですか?」
「あぁ」
忙しそうに荷物を運んでいた男は、それを抱えたまま起用に指をさす。
「城門の方にね、ほら、また奴らが来たんですよ。 盗賊の奴ら」
「えぇ!」
ということはまた誰かが犠牲になったのだろうか。あぁ神よ、胸が痛い。
「ところがね、今度は連れてこられた親子、二人とも助かったらしいんですよ」
「えぇ」
それはそれで信じられない話、もうどうにもならないから私が呼ばれたはずなのに。
それとも山賊たちが改心して人質を返してくれたのでしょうか。
そうだとしたらやはり神の御業でしょう。ありがとうございます天におわします我らが太陽の光よ。
「それがおかしな話だっていうんだ。 山賊の奴ら突然次々と血を噴いて倒れて、あの親子以外みーんな死んじまったそうだよ」
違う。
「神官様?」
「あ、あぁ、ありがとうございます」
「いいってことよ、また何かあったらうちの店をよろしく頼むぜ」
それが神の御業ではないことははっきりとわかる。
「はい、区間長に伝えておきます」
何故なら私はそれを見たことがあるからだ。
「……ジャンパーさん」
恐らく間違いないだろう、彼の仕業だ。
彼のあの魔術具は確かに突然相手を殺すことができるから、その話に登場する出来事は彼の仕業だと考えられる。
彼の姿を探して思わず小走りになってみるけれど、人ごみの中でまっすぐ走るというのは随分難しい。
途中で馬にぶつかりそうになりながら、何度もぶつかりながら。
(あれ……)
そういえば、私はここに来たばかりだったわけで。
(ここは……どこでしょう)
いつの間にか周りの景色はどこも見たことがない路地裏に迷い込んで、今来た道もどこかわからなくなってしまった。
(うっ)
目の前には何か残飯をあさっている野犬の姿。城の中にこんなのがいるなんて……とショックを受けている場合ではない。
すぐに教会に戻らなくては。やはり区間長に許可をとってちゃんと道案内してもらうべきだった。
もう一度人ごみにもまれて教会にたどり着けるかは不安だけれど、それでもここにいるよりはいいと思うので、ゆっくりこの場から立ち去ろうと足を動かす。
後ずさろうとした私の足が何かごみを踏んでしまったらしい、乾いた木の破裂音が、周囲に響き渡った。
(あっ)
犬たちがそれを聞き逃してくれるのを期待したけれど、その願いは通じなかったことが、その低いうなり声とこちらを向いた眼光でわかってしまう。
犬たちは私を敵だと認識したのだろう。うなり声をあげてゆっくりと進み始める。
私はそれほど運動が得意な方ではないから、きっと逃げ出してもすぐに追いつかれてしまう。
(主よ……!)
もう祈るくらいしかできないから、首からぶら下がる木彫りのシンボルを握りしめて私は跪いた。
野良犬たちにではない。主に願うために、私は精一杯祈りをささげるために、跪いたのだ。
(……)
いつまでたっても私の体には痛みもないし、犬たちの牙も感じない。
恐る恐る閉じた瞼を開いて周りを見れば、いつの間にか私を囲もうとしていた犬たちも消えている。
御業だ。神の御業だ!
私の祈りが通じたのだ!
「あのな」
そう思い主への感謝をささげようとした私に、後ろから声がかけられる。
「何やってるんだ、あんたは」
「じゃ」
そこには見知った人の姿、見間違いようのない、ひどく特徴的な
「ジャンパーさん!」
あきれたような顔で立つ彼の姿があった。




