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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Red Storm Rabbit
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【16】乱場

 俺には今二つの道が提示されていた。


 多くを救うために手に器を作るか


 それとも一つまみの塩を振るか。


「……」


 どちらにせよ時間はない、悩んでいる時間で刻一刻と状況は悪化していくのだから、俺は決断しなければならない。


(俺は)


 目の前に倒れるコニューに処置をするのか、それとも病を根絶するための行動をするのか。


 コニューもまた病に倒れ水分を随分と失っている、このまま放置すればいずれ脱水症状が出始めるだろう。

 しかしコニューの治療を行えばそれだけ全体の進行が早まり、俺は多くの人の命を見過ごすこととなる。


 選べないなど甘えたことを言っていられる状況ではない。俺が一人でやるしかないのだ。



 俺が命の価値を、選別しなければならない。


「……っ」


 わかっている。選ぶ余地などない。

 一人を救うために見ず知らずの他人を犠牲にしていいはずのない、当然の理屈だ。


 苦しそうに息をするコニューの横で彼女の机から器具を探す。

 ガラスで作られたあの器具があれば……俺の血液から血清が作れるはずだから、十分な量の抗血清を生産してこの街の人間に免疫を配らなければならない。


「……くそっ」


 乱雑に散らばった彼女の机の上では目当てのものを探すのは困難を伴う。

 ガラス管の代わりになるものを探してもいいかもしれないが、それは時間のある時の話だ。今はあまりにもそれがない。

 アルコール消毒液、モルヒネのための注射針とセット。だが保存し分離させられる容器がなく、だからコニューの机の上に置かれていたガラスの器が必要になる。

 

「クソッ!! あんなデカいガラスの容器がどこにいったんだ!」


 どこにもない! 他人の持ち物を探している、何の手掛かりもないと言っていいのだから、そうすんなり見つかるわけがないのだ。

 もしコニューがどこかへと移動してしまっているならば俺にはもはや……。


 まずい。

 こんなことで時間を使っている場合ではないのだ。

 もし見つからないのだとしたらここに来る必要はなかった、注射器を使って少しでも多くの血清を作るべきだったのか?


 

 俺は、俺は一体何を。


 人々を見捨ててここまで走り、挙句にこの様か。


「クソ……」


 後悔か? そんな暇があるなら動き出せ、もうここには用などない。次へ移れ。

 

 コニューの机から緩慢な動きで離れ、一歩二歩、ようやく後ずさり、頭の中は何を行うべきかの優先度の選択で一杯になる。

 俺は一体何をするべきだ、何を行い、何を切り捨て、何を救うべきなんだ。


 ごちゃごちゃになる。


 失敗したという実感が俺の動悸を激しくし、白紙化した頭は上手く動かない。

 動揺している。

 

 この時間で一体何人が助からなくなるのか、わかっている。


 それがわかっていて、俺は動けなかった。


「……」


 そんな俺の背中を誰かがつかんでいたから。


「……これ?」


 霞んだ瞳で、息は荒く、真っ赤になった顔に赤みがかった体。

 憔悴しきった姿は彼女が平常でないことを知らせる。


 それでも、コニューはそのガラスの容器をもって立っていた。


 あぁ間違いなくそれだ。俺はそれを探しにここにきた。

 そしてそれを見つけられなくて、あまつさえ吐きそうになっていた。

 そんな俺を、彼女は救ってくれたのだ。


 だから俺はその言葉を口にしようとして、彼女に言葉を探して


「……すまん、コニュー」


 見捨てようとした人間に助けられたみじめな男は、ただそれだけこぼすだけだった。

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