【14】間抜
パラダ。
「ボス……ボス!」
パラダ。
「ボス、落ち着いてくださいよ!」
「お前らは後から来い。 俺は先に行く」
「あぁもう……お前ら走れ、置いてくぞ!」
なんで気づかなかった。
ここは現代じゃないんだ、くそ間抜けか俺は。
(気づけよ、そうなるだろ!!)
籠城戦、城下町に流行る病気……そして奴の言葉。
ここまでおぜん立てされないとそのことに気づけない俺は大間抜けのクソ野郎だ。
奴らからすればそれはごく当然の理屈。これ以上ないとおもえるほどに明快な戦術。
(パンデミックか……クソ!)
どこを経由したかはわからない。だが奴はどうにかして街の中へそれを持ち込んだ。
伝染病の株は誰かの体内で育ち、それはどんどん人を通じて広がり、人の病は国家の病となって蝕んでいく。
俺は未だにボケていた。ここは現代じゃない、この世界だ。
その病気を治す薬だってあるかわからないんだ、だったらどうして軽く見た!
俺がするべきことは偵察でもなんでもない、あの病気に真摯に向き合う事だったはずだ。
もし。
もしそれが死に至るならば。
(クソッ!)
ミスは常にその代償を要求する。
それは時間であり、機会であり、人の命。
間抜けな俺が手を伸ばして、子供のようにぐずっても、もう取り戻せないもの。
横倒しになった倒木を飛び越え、俺は向かう道の半分でこの帰りを渡ってきている。
俺はともかくタッツ達の体力はそろそろ限界を迎えているはず
だというのに。
「ホフキンス! おめぇその図体のくせして俺より体力ねぇのか!」
「う……うるせぇ……ふざけんじゃねぇぞ……まったく」
「倒れたらお前はクマと暮らせよ! 運ばねぇぞ!」
よくついてきてくれている。
「みんな、あと少しだ! 踏ん張れホーフス!」
「くっそぉ」
頼む、踏ん張ってくれ。
俺が行くまで。
俺がたどり着くまで。
視界の先にようやく見えてきたリレーアの街並みに、俺はただそう願って、足を進めるだけだった。
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……。
…………。
……………………。
静かだ。
まるで静寂の世界の中にいるよう、今日はなんだか随分と静かだ。
ベッドの中に体を沈めてもう何日も過ごしているけれど、こんな日は初めて。
「……」
なんだか酷く瞼が重い。
起きなきゃ、と思うのに、どうしても体が動いてくれない。
「……ダー」
誰かが私を起こそうとしてくれている。
それがわかるのに、体は熱くて、ちっともいう事を聞いてくれなくて。
「……ラダー」
その声にこたえる事が出来なくて。
「パラダー、パラダー」
泣き虫なその震える声を包んであげることが出来なくて、私はただ自分の呼吸の音だけを聞く。
何を考えることもできず、何を思うこともできず、ただすすり泣くイデの声を聴きながら、私は再び闇の世界へとその意識を落とした。




