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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Red Storm Rabbit
145/366

【14】仮生

 殺す意思。

 その対象を無力化する時、俺たちという人種は概ね何も考えてはいない。


 その必要に差し迫られるからそうする。そうする必要があったから、俺たちは常にこの鋭い爪に指をかける。


「……」


 この至近距離から七発も9mm弾を食らって生きて居られる人間などいない。

 俺はためらうことなくその引き金を引き切った。


 だから奴は死んで


「……っ」


 死んでいなければ、ならなかった。


「まったく、随分と痛い」


 奴は俺を掴んだ右手とは逆、左の手のひらで顔をかばって、その手の中に砕けた鉛を握りこんでいた。


「助けてくれた相手にするのがこれか?」


 俺の体が宙に舞う。

 奴の力は想像を絶していた、腕を掴まれ放り投げられれば、全身装備で110kgは超えているであろう俺の体が、あっさりと空を滑る。

 泥の地面に着地してしばらく弾んだ体がようやく止まれば、俺の体はあちこちと痛みが走った。


 既に夜の色が明け始めて、朝焼けの色が辺りを照らしている。


(まずい)


 奴が悠々とこちらに向かって歩いてくるのが聞こえた。

 距離を離さなくては。


「つっ!」


 だが立ち上がろうとして違和感を覚える、どうやら膝と足首に大きなダメージを受けているらしい。

 致命打ではない、少し休めば動けるようなものだとは思う。


 だが今はそのちょっとで俺の命の行き先が決まる。

 

 立て。


 立て。


 立


「無理をするな」

「……」


 俺の体を影が覆う。

 俺と太陽の間に、男が立っていた。


 終わりか。


 こんなことで、迂闊に死ぬ。間抜けな男だ。

 視界の中を満たすぬかるんだ地面のように今の俺は無様で、地面を這った哀れな男は死を賜う。


 くそっ。

 畜生。




 すまん、パラダ。







「……?」


 だが何時までたってもそれは来なかった。

 既に地面に俯いたまま七十秒は経っている、いくらなんでも冗長にもほどがあるだろう。

 わからない、俺の視線はずっと泥の地面のままだったから。

 

 ゆっくりと、視線を上げる。


 既に俺の目の前にその姿は無く、気づいてみれば俺を覆っていた影も消えていた。

 見渡せば、奴は近くにあった倒木に腰掛けて、のんびりと足を組んでいる。


「何のつもりだ」

「何がだ?」


 心底不思議そうに表情を作るジェイメリ。それはこちらのするべきものだろう。


「ほら見ろイヅ、もうすぐ降るぞ」


 なんだと思って奴の視線を追ってみる、それは天を見上げていて……


「美しいだろう」


 まだ藍色を残す空に薄く彩る極彩色。

 それは星々のようにも見えて、けれどもその星は俺たちに輝くことはなく、美しいアーチが伸びている。


 山と地平線を、大きな虹が繋いでいた。


(……そうか、夜明けか)


 この山に伝わる話。

 朝焼けの中現れる虹の話、あまり役に立たない情報だと記憶の隅に置いていた。


「さて、帰るか」


 何のつもりだ。奴は立ち上がると俺に背を向けて歩き出す。


「貴様もそんなところで寝ていると体調を崩すぞ? すぐに帰るがいい」

「……」


 見逃す?俺を?

 何故だ。


 だが、機会を得られるというならば。


「もっとも」


 例え泥を啜ってでも生き残って見せる。

 それが兵士の、俺の、約束だからだ。


「するべきはお前への心配ではなく、リレーアの民であろうがな」


 



 どういう意味だ?

 その言葉に引っかかりを覚える。


「早く帰るがいい、聖戦士よ」


 ゆっくりと俺に振り返った奴は、驚くほど柔らかな笑顔で俺に微笑みかけた。


「早くしなければ、貴様の背に立つ人々がみな、死んでしまうぞ」



 その時、息が酷く熱く感じられて、俺の視界は酷く鈍色に染まる。



 パラダ。

 

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