【13】雪踏
「はぁっ……はぁっ……」
息があがって、肩が揺れる。
乱れた髪が散り、吹きあがる汗がシャツの裏で体を蒸してやけに熱い。
先ほどから全身運動を続けている、体にたまった疲労は既に体に影響を及ぼすほどに膨れている。
「~♪ ~~♪」
だというのに、奴は鼻歌混じりに歩いている。
奴の動きは俺よりも遥かに大きく、消耗するはずのものばかりのはず。
そのはずなのにまったくそれと感じさせない歌が聞こえる。
「どうしたイヅ、お疲れか?」
「そう……だな」
これ以上奴に付き合うのはまずい。既に消耗激しい体は機敏さを欠き始めている。
「……」
ランチャーに残された榴弾を三つ、次々と吐き出す。
奴の手前に着弾したそれは泥を巻き上げ視界を塞ぎ、俺との間に煙の壁を作った。
そして、入れ替えに持ったライフルのモードをフルオートに入れ、引き金を引き絞る。
でたらめだ。奴に当てようなどと思ってもいない射撃の波。
近づけさせなければいい威力射撃を行いながら、徐々に、徐々に来た道を下がっていく。
だがこのまま戻って彼らのところへ向かうのもまずい。なんとかこいつを撒いて逃げ切らなければならない。
だからこの際出し惜しみはなしだ。
胸にひっかけられていた最後のコンカッショングレネードを投げ、俺はライフルを担ぎ上げる。
既にすべての弾倉は使い切って、後は胸に取り付けられたハンドガンだけだ。
あとは全速力で走るのみ。
もはや振り返ることもない、山の斜面を転げ落ちるように下って……そこからはそれからだ。
駆ける途中に装具が脱落しないよう最低限の固定をしつつ、その道の途切れた崖に向かいまっすぐに進む。
戦い続けて死ぬ事が誇りだなんて思いはしない。
生き残る。それは何よりも必要な事だ。
飛ぶ。
この先へ。
俺は崖の向こう側へと、思い切り足を踏みしめ。
「まったく」
姿勢を崩した。
「危ないなァ」
恐らく袖を掴まれたのだ。予期せぬ力点の発生に全身のバランスが崩れ、危うく頭から地面に飛び込みそうになった体を右手で支えた。
「死に急ぐことはないだろう」
体を支えた右手はすぐに胸に滑り込み、ホルスターのロックを取り外す。
「何もそのような……」
奴が何を言おうとしたかは知らない。
俺がするべきことはただ一つ。
マズルより放たれた七つの光は、衝撃を伴って俺の体へと帰ってきていた。。




