【11】雪中
亀が二体にらみ合い、互いに首を縮めたままにらみ合う。
互いに互いを食い合おうと思っているのに、この静的な情勢を打ち破ることができない。
「心配ですか?」
「何がだ、下らんことを言うな」
こんな季節でも山頂は凍える様な風が吹く。それどころか雪まで降り積もり、俺の顔まで白く染めている。
おかげでこのルートはほとんど人の手が入ることがなく、誰かに気づかれるという可能性も極めて低い。
強行偵察にはもってこいのルートというわけだ。
「俺たちの心配もしてくださいよ! こんなんじゃ尻から咳がでちまう!」
「黙って歩けホフス。 まだ先は長いぞ」
「畜生!」
ひと際大柄のホフキンズは風の当たる面積が多く、その分体が特に冷えるらしい。
スッティ、タッツ、タンガ、それと四人の兵士という少数構成でこの山頂近くの道を抜けている。
野生動物に襲われる可能性と敵と接触する可能性のトレードオフだが、図体の巨大なホフキンズに恐れて大抵の野生は怯むものだろう。
この道を抜けた先に行くとバイバレスの本陣を見下ろせる高所が存在する。
そこまで向かい今奴らが何をしているのか、それを把握する必要があるから、寒い寒いと愚痴るホフキングを置いて進むわけにもいかない。
「あとどれくらい歩くんですかぁ」
「二時間ってところだ! 元気だせ」
「うへぇ」
はっきり言って足元は酷く不確かで、若干溶けている雪は靴底をぬかるませる。
普通に歩いて十分の距離がここではニ十分の距離に代わるのだから、確かにこれは人間の通るところではない。
「お前が倒れたら置いていくぞホフス。 スッティ、タッツ、倒れたら運ぶのはお前らだからな」
「えぇ冗談でしょ」
「おいホフキンズ、倒れたらお前のズボンは捨てていくからな」
「ふざけんな、うぅ」
仕方ない。
「全員休憩だ、靴をよく磨いておけよ」
「助かった!」
「俺たちも助かった」
無理をさせて本当に何かしら問題が出た時を考えれば、ここで十分時間を使う方が結果的に安定につながるだろう。
「俺は先を見てくる。 十分ゆっくり休めよ」
「了解」
幸い俺は靴底にハーネスを兼ねた多様性固定具を取り付けているから、こういう歩きにくい場所でもさして苦労はしない。
部隊を後に先を急ぎ、この先にある障害や脅威を計り今後の安定を確かめる、斥候をやって休憩の終わった部隊と合流、これでいくとしよう。
部隊に経験を積ませるためには仕方ない事だが、実際のところ一人で行動する方が彼らと歩調を合わせるよりは行動しやすい。偵察だけならば俺一人で事足りる。
雪が降っては道を澱ませる。一人その中を歩いて、ただただ自然の音に耳を澄ませていた。
その中に何かが混じるなら、それは。
(なんだ?)
胸にかけられた単眼鏡を取り出す覗いてみる。
しかし周りに見えるのは何一つわからない山道と泥。そこに人の気配は感じられない。
だが俺の耳には確かに違和感が触った。
この先に何かがいる。
誰かが何かをわめいている。
「……っ!」
それは確かに存在している、幻聴ではない。
静かに銃床を頬に当てて、俺はその先に存在するであろう影を見やる。
雪の中に幽鬼のごとく立ちすくんだその姿は
俺の網膜に焼き付いてあった。




