【10】後悔
衝動的な行動は慎まなければならない。
何故かなんて言葉にする必要もないだろう、感情に任せた行動は必ず何かを背負うことになる。
「なんだ、なんっ!」
視界の中で次々と倒れていく奴らは、何が起きているかもわからないままその一生を終えるのだろう。
腕の中で正確な鼓動を刻み続けるライフルの機関部は、俺の呼吸と合わせて息を吐き出す。
初速980m/s、1450Jで飛び出した5.56mmx45mm NATO規格で作られたMK368 MOD1。
こいつはMK318のオープンチップを受け継いで作られた、海兵隊連中の肝入りだ。
とはいえ今俺の使っているものはそれを亜音速にし消音化を計ったMOD2であるから、威力は落ちてしまっているのだが。
それでも大よそ現存するSTANAG4172の中では最高のパフォーマンスを発揮する。
当然毛皮のようなもので止まるわけがないし、彼らが構えた盾もまた意味をなさない。
身を守ろうと屈みこんだ男の構えた鉄の盾に穴が二つ、そのまま重力に引かれて後ろに倒れる。
彼には一切何が起きているかわからないだろう。
いや、彼らだけではない。
「い、一体何が起きている」
近くにいた指揮官の一人がうろたえていた、まさか隣で寝息よりも静かな音を出しているこの機械が彼らを殺めているとは夢にも思うまい。
しかし一人だけそれに気づいたものがいるとすれば。
「……」
ジストだ。明らかにこちらを見ていた。
彼女は銃に対する知識があるから、この状況に対して恐らく誰よりも正確に把握できたのだろう。
「神だ」
女に近づこうとした男の膝を撃ち抜く。糸の切れた人形のように転がり落ちた男が、街を守るために組まれた柵に刺さって死体へと変わった。
「神がお助け下された!」
ようやく死体を積み重ねた彼らは、これが尋常ならざる事態だと理解して女たちを置いて稜線の向こうへと消えていく。
仲間たちの死体を引きずり下がり始めた男達の姿を見ながら、俺はようやく引き金に置いた人差し指を抜き出した。
「奇跡だ!」
恐らく即死したのは最初の男を含めた七人、死傷者なら十六といったところだろう。
安全な仕事だと思っていた彼らはすっかり面食らって統率も取れずにバラバラに逃げ出していく。
これでもうしばらくは大丈夫だろう、彼女たちも救われるはずだ。
(やってしまった……)
迫ってくるのは自己嫌悪の念。別に引き金を引いたことについてじゃない、自己の独善によって人の命を推し量った事にだ。
別に青年らしく救っていい命と殺すべき命を選別したことに罪悪感を感じるとか、そういった話ではなく、ただただ自制心の無さに悔恨している。
「お、おい」
「何だ」
さっさとこの場から離れようと思うのに、俺のストールを引っ張った女は興奮も隠さず声をかける。
「お前がやったんだろう?」
「あぁ」
迂闊だったと思う。
一刻も早くこの場を離れてこの仕業が俺のものだと辿り着かれないようにとそっけない態度をとったつもりだったが……。
ジストという人間がどういう人物であるか、思い出すべきだった。
「わかった」
あぁ、何もわかっていない。
「お前のこの戦果、しかと私が伝えてくる!」
「なっ」
言うが早いかジストは疾風のように立ち去り、あっという間に兵たちに紛れて見えなくなってしまう。
それから左程掛からず二度目の後悔が押し寄せてきたのは、言うまでもない。




