【6】友達
溜息溜息溜息。
どれだけ吐いても疲れも仕事も抜けていくわけじゃない。
机の前に置かれた書類の山は、俺が制定したものだとは言え、今は子が憎らしく思えてくるような量があった。
「奴らの攻撃、以前にもまして苛烈になってますね」
「ありがとうイスラトゥル、明るくなったよ」
「そう愚痴りなさらんでくださいな」
男から上がってきた報告を聞いて、俺はがっくりとうなだれて見せる。まただ。
いやわかってる、根源的解決が為されていないんだから、そもそも俺の悩みの種の消えるわけがないんだが、それでもやはり溜息は出てくるものだ。
「部隊はあとどれほど持つ?」
「さぁて……ま、三日三晩も寝てないとなりゃすぐに根をあげちまいましょうや」
「そうだな」
今進めている仕事を全て中断し、このバイバレスの攻撃に対処するべきだろう。防壁が抜かれては全ての計画が狂ってしまう。
しかし……。
「イスラトゥル、数学を学ぶつもりは?」
男は薄く笑うと、自分の腕をパンパンと叩く。
「俺が数える数字は二つ、これと、コレ」
まぁ期待してたわけじゃないが、イスラトゥルは自分の腕と斧を叩いた後大笑いしながら出て行ってしまう。
はぁ……、致命的だ。
致命的な人材不足だ。
今までダグレイスが軍務の殆どを担っていたからこそ成り立っていたバランス、彼がいなくなったことによってその皺寄せの殆どが俺に来ている。
なんとか気張っているものの、こんなこといつかは限界が来るだろう。
とわかっていても人材など地面から湧いてくる訳もなく、仕事が減るわけでもなし。
せめて文官の類でもいてくれればいいが、そんなものこのバイバレスで期待できるわけもなし……あぁ向こうに見える山の頂は雲に霞んで見えなくなっていた。
「ちょっと」
「ん?」
書類の海に抱かれて揺蕩う俺の意識をその声が港に引き留めた。そちらの方へと視線を上げ、頬杖付いたままの手から顔が少しだけずり落ちる。
「なぁに辛気臭い顔してるのさ」
「そりゃなんたって辛気臭いからな、お焼香の臭いがするか?」
「そういうんじゃなくて」
コニューはそういうと俺の前に座り、椅子を引き寄せると手に持っていた紙の束を差し出してくる。
「わぉ、誕生日プレゼントか? やったね、今日生まれてくるんじゃなかった」
「何よ、今日なの?」
「そうだったら祝ってくれるか?」
「いいえ」
なんにせよまた仕事が増えた。直接ここに来るという事は急ぎの用事なのだろうし読んではやるが、俺の気持ちはどんより曇り空。
しかしページをめくってみるとそれが仕事ではあるのものの、俺の思っていたような代物ではなかったことがわかる。
「こいつは」
「……大変なんでしょ、仕事」
俺の代わりに目を通された報告書、その写しだ。
そこには本来俺がするべき仕事の概ねが行われていた。
「……」
少しだけ顔を赤らめてそっぽを向くコニューの姿がどうにも愛らしくて。
「……えっ」
その頬にそっと唇を寄せて。
「感謝してる! 最高だお前は、コニュー!! ほんとにこのままだったら戦う前に死ぬところだった、ハハハハハ!」
その肩をバンバンと叩く。
ここのところ仕事続きで本当にうんざりしていたのと、寝不足気味だったのもあって一周してハイテンションになった俺にしばらくそうして労われて
最後には何故だと非常に微妙な顔をして出ていくコニューの姿があった。




