【4】落葉
世界が一瞬暗転して、気を失い、走った衝撃に意識が持っていかれる。
これは近くで巨大な爆発が起こった時によく似ている。
「セシー?」
実際は空から子供が一人落ちてきて、俺の首めがけてその両腕をひっかけたことが原因なのだが。
「イデ」
「ナン?」
俺の首からぶらぶらと揺れている彼女はまるで無邪気に俺を見上げている。
「上から降ってくるのはやめろと言ったよな?」
「アー、アー」
イデは都合の悪いことがあるとこうやって声を出して聞こえないふりをする事を覚え、俺の再三の注意も構わずこうして空を通じて移動することが多い。
その度に負担を掛けられる俺の首の事も考えてほしいのだが、一向にそれを改善しようという気配はない。
「聖戦士様……?」
ハッと我に帰る。
今ここがどこで、どんな状況だか一瞬忘れていたが、俺だけがいるわけではないのだから。
「そのお子様は一体……今天から降ってきたような……」
まずい。
「セシー」
イデが一体何のつもりでここに来たかはわからないが、状況だけで言うならばかなりまずい。
彼らリレーアの民衆はイデが何者なのか、ということを知らないから今は首をかしげるだけで済んでいる。
だがもしこれが魔女だとバレればリレーアの人間と散々と戦ってきたのだから、その感情を逆なですることだろう。
「セシー?」
イデ自信そのことを理解しているわけではないから、もしここで魔術の一つでも使おうものなら彼らがイデの招待に感づくかもしれず
そんなことになろうものなら……。
「せ、聖戦士様!!」
呼ばれて振り返る。気が付けばいつの間にか俺の首にぶら下がっていたイデもいなくなっていた。
振り返った先には、大人の男を一人を中空に、緑の光を発しながら吊るし上げている姿。
「ぶらー、ぶらー」
「おおおおおお!?」
球状の光に包まれた男が空中で右に左に揺らされている。
えっと。
「聖戦士様! ありゃ一体何ですか!」
「……えぇっとだな」
とりあえず害を与える気はないらしいのがありがたいが、一体どうやってこれに収拾をつけたものか。
「まさか……」
時間はあまりなさそうだ。
「おい、あれ……魔……」
いや、違うんだ、あれはだな……えぇっと、なんだ? 緑色の光が出て男一人を空中に持ち上げられる力……サイコパワー?
魔法と何が違うんだそれは。
「待ってくれみんな、ちゃんと説明する。 イデはとにかく彼を下ろしてやれ」
「あい」
「おっおっおっおっ!」
遥か高みからようやく帰ってきた男は、イデの繭から解放されるとようやく地面に帰ってきて、その恐怖に震えた顔を……。
「おおおお、なんだあれすげぇな嬢ちゃん! もっかいやってくれ!」
「セシーがダメーいうからダメ」
「えぇなんだよぉ!」
……どうやら順応しているようだ。
「一体なんなんだおめぇちびっこ!」
「イデ、ちゃん」
頭を抱えながら俺はこの場をどう収めたものかと思案しながら、もしかしたらイデをこのまま受け入れてくれるんじゃないかと、そんな幻想を抱きつつ。
「一体何の騒ぎなのさ」
人々の村を割いて現れた少女の姿に、俺はゆっくりと立ち上がる。




