【9】決断
さっきまでが最悪ならば、今は地獄の底とでもいうべきか。
数字言えば死ぬのが一人から二人になっただけであるけれど、事ここに至ってはそういう問題ではない。
「見よ! 貴様らの神は貴様らを救ってはくれぬぞ!」
まずい、あいつは本当にやるつもりだ。
「おい、何故助けにいかない」
「行けるものならとっくに行っている……」
それはそうだろうな、とは思うが今の状況が見えているのか? あそこにいるのは子供だぞ、恐らく八歳か、それ以下だろう。
それを見捨てるのか? まさか。
(いや)
そうか、ここは現代……俺のいた場所ではない。子供など掃いて捨てるほどあって、その価値は低いのだろう。
現代でも任務地では度々そうした環境を目にしているから、この世界でもそうした考えがあってもおかしくはない。
ジストがいっていたとっくに行っているというのはそういう意味だ、今更子供が一人増えたところでなんだというのだということだろう。
「神よ! 我らが神フォンセカよ! あなたに異民族共の首を捧げましょう!」
「いや……いや、娘は助けて!」
男が斧とは別に、大きな剣を取り出した。
彼の半分ほど伸びた刃は余り手入れがされていないようで、ところどころ刃こぼれを起こして血糊がついたまま。
恐らく処刑用の剣なのだ、その刀身に刻まれた歴史が今新たに刻まれようとしている。
(落ち着け)
そうだ、俺が何かをしたところで事態が好転するとは限らない。無暗に関与して取り返しのつかない事態を招いたらどうする。
(感情的になるな)
銃把を握った拳をほどいて、その場を離れるために歩き出す。
いくら理性で動けても割り切れないものはどうしてもあるのだ、出来ればこれ以上ここには居たくない。
直接の光景にさえ目をつぶれれば、それがあったという事実はいくらでも内々に処理のしようがある。
「……マ」
振り返るな。
「ママ」
立ち止まるな。
「フォンセカよ!」
男の猛った雄叫びが、俺の背中で天高く打ちあがった。
「ママ、ごめんね」
俺は。
「おさかな、あげられなかった」
俺は、神じゃない。
「見よ! 臆病者共の血を……」
人間だ。
「お」
人間は間違いを犯す。
「お頭!!」
照準器の中で血を噴いて倒れるヒゲの男を見ながら、俺はゆっくりと息を吐いた。




