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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
Red Storm Rabbit
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【1】沙石

 月が綺麗だった。


 この世界にも月と太陽が存在していて、彼らが入れ替わり立ち代わり世界を照らし人々を見守っている。


「……ッ」


 月が夜の支配者だとするならば、きっと彼は美しい夢の中で逝けただろう。

 タッツが倒れた彼の体を抱えて木の影へ運び込み、彼の異常に気が付かれた様子はない。月明りのお陰でうっすら人影が見える程度の夜だ。例え目の前に夜魔が降り立ったところで気づきはしまい。


 高い木の影からすり抜けてきた俺の影は、誰にも捕らえるられることなく中央の天幕へと滑り込んでいく。

 中にいた男は長い事この勤務を続けていたのだろう、うとうとと眠りこけていた頭は俺の侵入に気づくことなく、彼の耳に向けられた銃口は揺れることなく。

 死体を抱きしめ、血噴き出す彼の体をゆっくりと地面に降ろし目当てのものを探し当てる。彼らは情報の通りこの場所へ集められていた。


「ツーベリックの隊か?」

「そ、そうだが。 あんたは……」


 天幕の中央に集められた彼らは恐らく三十人ほど、昨日の戦闘で捕縛された軍の人間だ。


「守護天使だよ」


 眠りこけていた残りの二十人も異変に気付いてもぞもぞと起きだし始める。彼らの束縛を解いてやって、開けた入り口から見えるように蛍光ライトを振った。

 外にいた人影がそれを確認したことを暗視装置で見れば、遺された俺の仕事は単純だ。彼らが仲間を起こしている間天幕の中に爆発物をいくつか仕掛けていく。


「全員問題ないか?」

「あぁ大丈夫だ、動ける」

「よし、リレーアへ帰るぞ。 俺の合図で外に出ろ」


 男はこくりと頷くと、背中にいる他の捕虜たちに事情を説明し、彼らもまたその後ろへと話をつなげていった。

 だが、一つ想定外だったのは、その内から一人が抜け出してきて俺の方へとやってきたこと。どうやら女のようだが、その表情はあまり面白い用事ではなさそうだ。


「聖戦士様、この近隣にまだ……!」

「わかった、何人だ?」


 彼女が言いたいことが察しが付く。


「わかりません。 ですが私たちと一緒に運ばれてくるのを見ました、十人以上はいるかと」

「任せておけ、逃げる事だけを考えろ」


 彼女はこくりと頷けばもうそれ以上の言葉は口にしなかった。


 時間まであと。


「5、4」


 左手に挙げた指を秒刻みに折っていく。


「3」


 音がした。軽い缶のようなものが地面に落ちた音だ。


「なんだ?」


 天幕の周りからする声は困惑の色を伴って……彼らが足元から湧き立つ煙に困惑している様子を思うと笑えるな。

 タッツ達が投げ込んだ発煙弾が充満し、天幕の周りは月明りに照らされた白い煙に塗りつぶされる。


「なんだ、火事か!? 警戒しろ! 火がでているぞ!!」


 雲の中のような心地を体験できたんだ、悪く思わないでくれ。

 天幕の入り口にたった男の背中に引き金を引くと、彼は首を抑えながらそのまま倒れこむ。


「行け」

「行くぞぉ!!」


 そこは静かにしてほしかったが、仕方ない、打ち合わせ不足だ。

 俺の後ろで男たちが立ち上がり次々と天幕の外へ向かい脱出し始める。

 この煙幕の中だ、護衛の兵士たちも状況を把握するころには既に手が出せない位置まで行っていることだろう。


 さて、ライフルを横倒しにして休んでいる場合じゃない。

 予定外の仕事が一つできてしまった。

 いったん下ろした腰を再度立ち上げ、スターライトから赤外線へと暗視装置を切り替え視界を確保し、改めて見上げる。


 この煙幕は赤外線を通すと見事煙の向こう側を透けて見せる、セット運用を前提に作られたものだ。

 


「おい」

「な、なんだ!? どうなってるんだこれは!? お前何か知っているのか」

「あぁ、あっちで火災だ」

「感謝する! 貴様もはげめよ!」


 そういって目の前にいた男の影はあらぬ方向へとかけていく、毎回これで済んでくれれば楽なものだが、まぁそういうわけにはいかないだろう

 道中そんなやり取りを何度か交わした後、先ほど捕虜を解放したテントの隣に立てられた小屋を見つける。一言でいうなら、まぁそうだな、中にあるのは動物用の食料か掃除道具かといったところだ。

 こんな中に人間が詰め込まれているとは思いたくはないところだが。


「生きてるか?」


 扉を蹴破れば確かにそこには人影がいくつかあった。扱いからしてバイバレスのもの、というのは考えにくい。

 リレーア人たちの生き残りの一部といったところだろうか。


「……」


 だが彼女は俺を見上げたまま何も言わず、何もせず、ただぼうっと見つめているだけ。

 そこに意志は感じられず、例えるなら自動認識のロボットのような動作。

 あぁ俺はこいつが何かを知っている。


(シェルショックか)


 彼女が一体何を体験したかは知らないが、少なくとも自律神経がやられる程度の地獄を見てきたらしい。

 よく見れば小刻みに体は揺れているし、猫のように開き切った目の下にはいくつも涙の跡が見られる。


「せ、聖戦士様」

「あぁ……こいつはどうした?」


 幸いなことにシェルショック状態なのは彼女だけで、他の三人は体に傷を負っているものの正気らしい。


「手足を拘束されて、口を閉ざされ……目の前で仲間を何人も処刑されたんです……三週間もの間」

「……そうか」


 拷問の一種としてはよくあるものだ。

 捕虜の精神を折るには体を痛めつけるよりも心を痛めつける方が効果的であること、よくわかっている人間の仕業だろうな。

 

「あのジェイメリとかいう男は狂っていやがる!」

「、っ」


 なるほど。


「よし脱出する、俺についてこい、いいな?」

「は、はい。 ですがどうやって?」

「心配するな」


 彼の目が見ていたのは未だぼーっと床の上に座り込んだ彼女の姿。


「必ず助け出す」


 彼女の首から胴体にかけて背中に通すようにして背中で担ぎ上げる。成人女性の重さにしては随分と軽々しく持ち上がったそれを回りにぶつけないようにしながら、扉の方へと歩き出す。


 光りの方へと向かって。

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