幕間
彼らの運命は絡み合う。
一人は忠実なる戦士として、兵士として戦場に祝福を与え
今一人は神に仕える従僕として、その血を彼にささげるのだろう。
今昔物語とは往々にして人々戦いの詩である。
斧と剣と矢じりだけが彼らの命の価値を計った。
彼らの戦いもまたそうした物語として詩人たちに謡われ、大地は流された血に喜び打ち震えるだろう。
兵士は己の宿命を呪いながらも、その命を賭して命にかかる。
彼の人生にはそれしか存在しない、そこに彼の意志など介在しないのだから、彼は神のからくりのようなものかもしれない。
しかしからくりには悲しみがない分、悲劇を気取ることもない。そういう意味ではからくりの方が幾分ましだったのだろう。
流された血溜まりの底で壊れた歯車は一体何を思うのか、錆びた精神は彼を救うことはない。
人々によって謡われた彼の虚像に伸びた影は、いつしか国を覆うことになる。
従僕が既に正気を失っていること、疑いようはない。
痛みによって彼は人間であることを手放し、既にその意識を常人には理解の及ばぬところにまで高めた。
彼の意識は彼の神に通じ、彼の体は既にその熱を失っているから、大よそこれを人間と呼ぶことはできない。
本当の意味で彼は"天使"に近い存在となってしまった。
彼は一度死に、忌まわしき太古の繰り言により蘇えりをした。
その故にその肉体は熱を持たない。黒く塗られた肌に、時たま走る赤は血のようであり、吐く息は紫に染まる。
蘇りを超えた肉体は人を絶する力を持つのだ、故に禁忌とされてきた。死者の軍勢の地を歩く音を聞いて安らかに眠れる人などいないのだから。
彼は人間ではないから、もはや人間の痛みも、その悲しみとも縁遠きものとなった。
彼の目的は単純に一つ、兵士を殺すこと。
彼の神に対してあの悪魔の血を捧げる事である。
そのためならば彼は何もかもを捧げ、戦う。神の従僕である彼の命の意味とはそれであるのだから。
この二つの交じり合う事のない運命が今や数多の運命に支えられ、戦場という最高の舞台において決着をつけんとしていた。
彼らの意志は決して繋がることはない。
あれらは血を流すことでしか、その解決を見ることがない。
例えそれが愚かな行いであろうと、彼らが持ちうる言葉はそれしかないのだから。
神よ、哀れみたまえ。
彼らの命を。
あぁ!! 嵐が来るぞ! 赤い赤い嵐だ!
全てを覆う赤き風が全てを巻き上げ吹くぞ!
みな備えよ、嵐は我らが田畑を流し、長じた波は家族を攫っていく。
みな備えよ! 嵐は貴様の全てを奪っていくぞ!
嵐だ、嵐だ! あの風は、赤く赤く吹きすさぶ。
流れた血の数だけかの空は紅に染まるのだ!




