【38】黄苑
青空に煙が昇っていく。
海の色を反射したどこまで澄み渡った空へと、白い一筋の雲がかかっていた。
全ての人はいつかああなるのだろう。歩き続けて、語り続けて、俺たちはあの空へと帰っていく。
煙はいつか雲となって空に浮かび、雲はいつしか雨となって親しい人たちのところへと戻ってくる。
雨はどこかへと消えて、悲しみの記憶もいつか消えてしまって、彼らは人々の中に本当の意味で生きていく。
「……」
葬儀の全てが終わってから、俺は魂が抜けたようにこの草原に座り続けていた。
ダグレイスの遺体は木でくみ上げられた祭壇の上で、火によって浄化され、骨を残してこの世から失われていた。あの煙は彼を燃やした火によるものだ。
俺たちの帰還によって生まれた悲しみも一緒に、ダグレイスは空へ登っていく。
"すまない"
ダグレイスの死は、激しい悲しみによって迎えられた。
男たちは泣き、彼の遺体に伏し……女たちは叫び、激情を声に出し、それぞれの別れを告げて、一日中彼らは泣き明かしたのだ。
だからこそ、俺の脳裏に浮かぶのはその姿。
"すまない、コニュー"
俺からその事実を告げられた時の彼女の顔が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
コニューは泣くでもなく、崩れ落ちるでもなく、喚くでもなく、ただ、俺を見つめたまま、驚いたような顔をして
"そっか"
とだけ。
あれ以来、部屋からは一度も出てきていないそうだ。
「すまない」
その言葉をもう一度繰り返す。
「すまない」
俺は、コニューを悲しませてしまった。
ダグレイスから託されたのに、俺はさっそくそれを裏切ってしまった。
なぁダグレイス。
俺は一体どうすればいいんだ。
どれだけ言葉を覚えても、どれだけ世界を知っても、この時にどうすればいいのか俺は未だにわからない。
誰かがいなくなった悲しみを……失われた父親のぬくもりを埋めるには、俺の手はあまりに頼りなくて。
青空が見えなくなった。
顔を両手にうずめて、俺の手のひらには冷たい感触がいくつも落ちていく。
俺は
俺は一体何をしてるんだ!!
銃を振りまわして、いい気になって、その結果がこれか!?
結局俺は人を殺す以外に何もない。何一つない!
殺して、殺してまた殺して、いつまでもそうやって行くんだ。誰一人救えやしない。
俺は今まで何人も、いくつもの命を奪ってきた、その男が今更救いたいだと?冗談を言うな。
彼はもう喋らない。
俺がそうしたから。
俺の手はもうずっと血の池の中に浸かっていて、真っ赤に染まり切った手は誰かに触れる度に新しい命をその中に引きずり込む。
地獄の底で俺は、ひたすら誰かが通りかかるのを待っているんだ。
だから。
「イヅさん」
聞こえてきたその声に、救いを求めるように顔を上げて
「……パラダ」
陽光を背負った彼女は、草原に影を作って、俺を見下ろしす。
背中では、黄色いオミナエシが咲いていた。




