【7】事の起こり
騒がしいのはずっとだ。
だがこの一点に集まっていく人波と、焦点に向けて収まっていく騒がしさは確実に異質さをもって人々に訴える。
「聞こえたかー!!」
その声に惹かれるように、城門の近くへと誰も彼もが詰め寄せていた。
「貴様らが我々の要求に応じない限り、我々は何度でも、いつまでもここに現れる」
俺たちは随分遅れて到着したらしく、ここに辿り着くころにはもうすっかり城門前は人の壁が出来上がっていて、それをかき分けて進むのに苦労してしまう。
といっても苦労しているのはジストであり俺ではないのだが。
「退け、退いてくれ! 私は騎士だ!」
「悪いな」
ほとんど人を引き倒すかのように突き進む彼女を風防代わりに立てて、俺もその後をついていく。
得られる情報ならばできうる限り把握しておくに限る。
俺たちが目指すのは監視砦の最上階、入り口を守る衛兵もジストの顔を見れば渋々その入り口を開けた。
螺旋階段を駆け上がり城壁の上へ、城門の向こう側を見渡せる城壁の上へと向かって、ひたすら体を進ませる。
息を切らせてようやく辿りついた城壁の上では、兵士たちが弓を持ち、指揮官が控え、城門の前に現れたその男達に向かい合っていた。
「貴様たちは神に祈れ、お前たちの哀れな神に! 無力で、無慈悲な、家畜の神に!」
あぁ、大体思っていた通りだ。
「そして祈りを捧げ」
情報をいくらか手に入れたことで、この状況を推察することができる。
あれは人質だ。
「この哀れな女が死ぬ」
草原の上に縛られて跪く女性の姿、ああなった人間は身動きなどとれないだろう。
「貴様らが金を払わぬ限り、我々は毎日ここにきて殺そう!」
大声を出している男が腰から斧を抜き取り、彼女に突きつけた。
「貴様らが支払うまでに、ここに一体いくつの首が転がるのであろうなぁ!」
男の後ろについてきていた複数の男達が声を上げて笑い出す。彼らは粗雑な皮と毛皮、それに麻の装束に身を包んで、薄汚れている。
ジストを始めとしたこの城下町にいる人々と見比べても随分と酷い格好だ。
俺がこの世界にきてから彼らと似た様な恰好を見たのは、あの時。
「奴らは」
あの草原の記憶。
「あの時お前とパラダを襲ってきた連中か」
「……あぁ」
なるほど、ようやく状況が呑み込めてきた、つまり。
「あいつらはこの国の王を誘拐した蛮族で、王の身柄と引き換えに身代金を要求してきている
だがこの国が未だに支払う姿勢を見せていないせいで、業を煮やしてこうして脅迫に出た、あってるか?」
「その通りだ」
なるほど。
「状況は最悪だな」
奴らに手を出せば王の身柄は保障されないし、支払わなくても国民が死ぬ。
「出て来い! 姿を見せろ臆病者!」
交渉の余地というのはなさそうだ。




