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Flagrant 高校生特殊部隊が異世界転生  作者: 十牟 七龍紙
The Sum of All Army
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【30】正座

 闇の中に光が差す、というのはこういうことだろうか。つい先日まで全てが全て俯いていた人々の顔が、今や誰も彼も上を向いている。

 決して何が変わったわけでもないのだけれど……そこには確かに希望があった。


 先日までまるで死の空気に包まれていた街は、今確かに息吹いている。


“聖戦士!”

“北の敗北の謡い手!!”


 俺が道を通るたびにそんな歓声があがり、俺に向けられる顔は活力で溢れていて


「……」


 あるんだよな、希望。


「それで」


 目の前にいるのはかつて聖女と呼ばれた女。

 全ての人に慈悲と愛を与え、貧しさより民を救い給う神の信徒。


 じゃあ何で俺はそれの前で正座をして、目をそらしているのだろうか。


「セー、センシー?」


 俺のすぐ隣から上がる声は、この状況が呑み込めていないのだろう、不思議そうに俺の名を呼ぶ声。

 あぁ、わかってるからちょっと黙っていてくれ、状況がややこしくなる。


「いや、だからな? これは魔女で、それを救出してな?」

「はい。 それは伺いました」


 一体、一体俺は何を怒られているんだ。


「それで、何故その魔女さんがイヅさんに右腕に抱き着いているのかをお聞きしたいのですが」

「えっ、いや、さぁ……?」


 パラダに怯えてるんじゃないか? と頭から二本指立てて冗談めかそうかとも思ったが多分鬼という概念が通じないし、そもそもそんな雰囲気ではない。

 まるで言いつけを守らず冷蔵庫からクッキーを取り出したのがバレた子供のような心持だ。

 ママ、ごめんなさい僕が悪かったです、もうしないから……といって終わる話ならいいんだがな。


「……」


 パラダはにっこりと笑ったまま、その言葉も表情も一ミリたりとて心の底から笑ってはいない。


(ジスト! なんとかしろ!)

(無理言うな! 私にはどうしようもない!)


 視線はパラダの後ろ、早々に被害の及ばない位置に逃げたあいつに非難の意を送るのが……役に立たん奴め。

 




 事の始まりは十分前。


 ひとまず彼女、イデをどこかへと住まわせる必要があった。

 第一候補は隊の宿舎、要するに俺の一番目の届く範囲なのだが、これは問題が二つあった。


 一つは男所帯で女っ気のない事。

 製錬された兵たちならば女の色香が漂ったところで自分を見失わないだろうが、今俺が預かっている連中がそういうわけではないことは俺が一番よく知っている。


 二つ目は万が一が発生した時に事態が拡大する恐れがあるからだ。

 万が一、とは市民の暴動。魔女の身柄を要求し行動を起こす連中がでないとも限らない。

 そうなれば俺の軍とリレーアの市民が全面対立という事態に発展、とでもなれば内訌に発展する可能性が大いにある。


 そういうわけでこの第一候補に預けておくわけにはいかず……さて思いつくのは第二候補のここ。


「あの、ほんと、すいませんでした」


 教会だったというわけだ。


 ここならばパラダもいるしジストもいる、更に市民達も教会に対して暴動を起こすなど考えはしないだろうから、ベストチョイスだと思ったんだけど。

 よくよく考えたら教会が禁じた邪法、その権化とでもいうべき魔女を連れてきたのはまずかったな? しかもしばらく世話をしてやってくれと。我ながら聖戦士の自覚ゼロである。

 そこのところも含めて既に10分ほど説教をされているというわけだ。


「はぁ……もういいです」

「パラダ」

「なんでしょう」


 俺を見る彼女の目が呆れでいっぱいになっている。よし、ここはとっておきだ。


 ポーチを開けて中から銀紙に包まれたそれをパラダに向けて差し出す。


「……イヅさん」

「うまいぞ」


 俺の大好物。


「魔女さん……イデさんでしたか、あなたは行っていいです」

「イッテ?」

「お説教は終わりですから、どうぞ向こうへ。 ジスト、寝室へ案内してあげてください」

「わ、わかった」


 パラダはその黄色の固形物を受け取っていないが、説教は終わり。

 やった。


「そうか! すまんなパラダ!」

「イヅさん、あなたはダメです」

「えっ……」


 パラダに向けたままの手が固まる。 


「あなたは聖戦士としての自覚が足りないようなので、今日は理解してもらえるまで私もずっと付き合うこととします」

「……」


 浮かしかけた腰は今一度地面に戻って、希望に溢れた体は、もう一度正座の姿勢を整えた。


「いいですかイヅさん、聖戦士というのはですね……」


 くどくどくどくどくど、くどくどくどくどくどくどくど、くどくどくどくどくどくど。



 あぁ、神よ。

 なんか、すいませんでした。

 いや、ほんと悪いと思ってるので、どうか俺をお救いください。

 なんていうか、明日から頑張るので、どうか。



 そんな敬虔な祈りも天には届かず、結局パラダから解放されたのは三時間ほど後の事。

 一体何が悪かったというのだろうか、俺は最善を尽くしたつもりだ。

 奥の手まで出したんだ。これ以上はない。


 だったら何故俺は足がしびれて仕方ないのだろうか。俺にはどうしてもわからないでいた。


 

 おいしいのに……カロリーメイトのフルーツ味……。

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