【S9】仲良し二人
う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん…………………。
最近分かったことがある。
「どう思う?」
「?」
あの人は結構勝手だ。自由奔放ともいう。
馬車の中二人目を合わせると、彼女は同意ともとれない首傾げを僕に返した。
「勝手だよねぇ、僕に君を預けた、なんてさ」
脳裏浮かぶのは不思議な姿の男の影。
「ഇത് വളരെ ആണ്」
「そうなんだよねぇ」
唯一彼女の話す“エルダーエンギッシュ”を理解できるのは僕しかいないから、聖戦士様は僕に彼女の世話役を任せて、自分は違う馬車へさっさと行ってしまった。
といっても、喋れないし、理解できるといっても最低限の単語がわかる程度で、実は文法も何もまったくわからないからほとんどフィーリングだ。
そんな僕に与えられた仕事は。
「それじゃもう一回行くよ」
「സമ്മതം」
彼女の前で体を動かし、もう一度この手前に置かれた本を見るように促す。
それは子供用の簡単なおとぎ話が絵と共に描かれた一冊で、僕は既に内容をあらかた暗記しているから彼女によく見えるようにして、しっかりと指で支えた。
「“こうして聖戦士は国を覆う暗闇を払い、王様に平和をもたらしたのです”」
「コウ シ センシハ クニ ヲ ヲウ? クラヤミヲライ オウ サマ ニヘイワ ヲモタラシデス」
「そうそう」
本に書かれた文字をなぞりながら声を出す彼女は真剣で、どうやら学ぶことに対する意欲は人一倍にあるみたい。
優秀な生徒をもって幸せだ……いやいやいやいやそもそもこんなの僕の仕事じゃないし。
「コ、ヌー」
「そ。 僕、コニュー」
彼女の指が僕を指す。
「ボク、イン、ビディ」
「そそ、君はインビディ」
いつの間にか移ってしまった一人称だけれど、かわいいしそのままでいい気がしたので訂正してない。
「でもその名前ちょっとかわいくないよね」
「?」
彼女は僕と同じくらい……だと思うのだけれど、頭身が低くて、どうだろう、体系だけならドワーフによく似ているから、その実のところはわからない。
ともかく見た目だけならかわいい女の子なのだから、インビディというのはいくらかかわいげがない。
(インビ……インビス……インビちゃん……インイン……イン……イン……うーん)
どうにもしっくりこない。彼女に相応しい呼び方、それをなんとか考えよう頭をひねってみる。
「……! これはどう!?」
ひらめいた!
「イディちゃん……いや、イデちゃんだ!」
僕に指さされた彼女が再び首をかしげる。
「イ、デ」
「そう! イデちゃん!」
ちょっと変だがインビディよりはずっとマシだ! 僕は彼女の手をとって持ち上げ、その瞳を見入った。
海の底のような深さの紅の瞳に、僕の顔が映りこむ。
「イデ、チャン」
瞳の中の僕が歪んだと思うと、ゆっくりとそれが消えていく。
自分を指して、瞼を閉じ、にっこりと笑う彼女の顔は、年相応の笑顔のように見えるから、僕もつられて笑顔を返した。
揺れる馬車、泥だらけの二人。
イデちゃんが僕たちの仲間になった喜び、彼女が笑ってくれた喜び、そんなものが色々こみあげて二人しばらく笑い合っていた。
……別に彼女の名前にこだわらず新しくあだ名でもつけたらよかったのでは?
そう気が付いたのは三日後の夜だった。




