冤罪の作り方
突然頭に激痛が走り苦しむ雄太はいつの間にかアマンダと名乗る女性と出会い消された記憶は力のある側の都合の悪い記憶と告げられた。そして病院らしき場所にいた雄太は・・・
その頃、雄太の死を知らない上・下院両議員が集う会議場ではエンタイルの質問に保安長官のアダマンが事実と異なる発言を述べたために議員達がざわついていた。そのアダマンの様子を公安自治長官である【ディエゴマー・ウタイビー】上院議員と同副長官(出席)の【テリー・ランドック】下院議員が心配そうに見つめていて更にそのウタイビー達の方を向く【ピート・クラインベック】下院議員が鋭い目付きをしていた。一方でエンタイルはアダマンへ鋭い質問を飛ばし続けていた。
「それで一つ聞きますがアダマン長官はこの事件について腑に落ちない点があることに気付いておられますでしょうか?」
「と、言いますと?」
「それは彼が事件当日に現場にいたかいなかったかという点です。彼はそこについて取り調べで全く触れていなかったと聞きますがもし自身が犯行をしていたら何らかの発言はあったはず。発言しないということは本当に有罪なのでしょうか?」
エンタイルの追及にアダマンは顔をしかめて回答をする。
「エンタイルさんのご指摘通り、何らかの関わりがあればまあ・・・確かにコメントはするはずだと思います。ですがテロ事件の多発により政府の信頼が落ちていますので信頼回復のためにここは逮捕したからには彼に(罪を)押し付け・・・あ・・・!」
「アダマン長官!今、とんでもない発言をされましたね!?信頼のためにでっち上げを行いましたか!!!どのような背景があれどでっち上げは許されませんよね!?」
なんとアダマンはでっち上げを認めるかのような発言をしようとし、エンタイルは鬼の形相でアダマンに更なる追及をする。エンタイル曰く背景に近年テロ事件が多発しており、政府への批判が多い中で事件が発生したために怪しいとみられる人物を逮捕して信頼を回復させようという計画なのだという。対象がたまたま雄太だったというだけであるが不審な(?)動きを見せた上に異世界に流されてきたために出自や身元がよく分からない雄太の存在はうってつけだったようだ。恐らく聴取の際に何らかのやり取りがあり、政府は雄太を犯罪者に仕立てあげようとしたと考えられるという。それを聞いた保安次官(副長官の次の位)の【ダンカン・パトリック・ケンブリッジ】下院議員はとっさに発言について弁明をする。
「その発言に関しましては罪を擦り付けるとかいう行為をすれば更に信頼が崩れるとあってむしろ冤罪を阻止しようとアダマン長官は考えておられたのです。」
しかし【シャラン・ペロ】上院議員は冤罪阻止を謳いはじめたケンブリッジに突っ込む。
「それでしたら『罪を押し付け・・・『あ』・・・』の『あ』って何なんですか?『あ』って!冤罪の阻止のためを理由とするならあと言って言葉を濁す必要はないはずでは?」
「あ、申し訳ございませんが『あ』とおっしゃられたのは誤解を招く発言になりかねないと判断したので発言を止めたのだと思われます。」
「ケンブリッジ次官!何であなたがそんなこと分かるのですか?私はアダマン長官に質問しているのです!なぜあなたが回答されるのか・・・まさか人の心の中を読む能力を取得されているのでしょうか?」
「いえ、その系統の能力はまだ取得していません。これから修行して取得したいです。政治に関わる人間ですからね・・・ニヤリ。」
ペロの真剣な指摘にケンブリッジは勝手に質問に答えたり笑いながらはぐらかすと野次が飛びはじめたのである。
「この大事な議論中に笑うとか非常識すぎる!」
「保安次官を辞めちまえ!」
ヤジを聞いていたケンブリッジは知らん顔をして議員からの質問を対応する次の人物を指名したのである。
「では、ウタイビー長官。質問のご回答をよろしくお願いします!」
「了解。」
するとクラインベックは目を大きくするとすぐさまウタイビーとランドックを睨み付けて手を上げる準備をした上で隣にいた【ジギィ・メローニ】下院議員と顔を合わせて頷くとメローニも頷いてポケットから何かを取り出しはじめたのであった。その時ウタイビーは質問の受付を開始したのだ。
「では質問がある方はどうぞ!」
「はい!」
「ではそこの方、どうぞ。」
「はい!私は前の選挙で信任を頂きましました【ピート・クラインベック】と申します!皆様よろしくお願いします!この度は質問をする機会をいただきありがとうございます!」
ウタイビーに質問するチャンスを得たクラインベックは礼儀正しく挨拶をすると拍手が起きた。そして挨拶を終えるとエンタイルに負けないほどの追及を始める。
「あのー、ウタイビー長官は今回の『市川事件』について冤罪の可能性などについての議論があることをどう思われますでしょうか?」
「えー、その点に関してですが司法の審理が行われた結果有罪ありきとなりましたのでそのような議論には正当性がないと認識しています。」
淡々と質問を返すウタイビー・・・だがクラインベックは口調を強めてウタイビーの発言に指摘をする。
「死刑が確定したから冤罪についての議論は不毛だとおっしゃられるのですね。それっておかしいのでは?」
「えー、そういうわけではありませんが有罪だと立証されているのでそれを覆すという訳にはいきません。」
「あ、その発言は無理矢理有罪にしたという言い方と捉えることが出来ますね!!!」
ウタイビーとクラインベックの討論に対し会議場内でクラインベックには『因縁つけるな!』『有罪だと決まっているだろ!』と野次が飛び、ウタイビーには『有罪の証拠を出せ!』『ちゃんと審理したのか?』などの野次が飛ぶ。双方の野次が飛び交う中、ウタイビーはランドックと共にこう語るのであった。
「すみません、私は公安自治副長官のテリー・ランドックと言います。この度は副長官にご指名いただきありがとうございました。それでクラインベックさんの冤罪の疑惑のご指摘について説明しますと被疑者の審理は厳正かつ慎重に行われまして無実を裏付けるものは何一つございませんでした。また私も長官であるウタイビーも冤罪阻止のためにいつもうた・・・謳っております。」
するとランドックに対して野次が発生した。
「今、あんた『冤罪阻止のためにウタイビーです』とギャグを言おうとしただろ!」
「大事な議論でふざけているのか!?」
一見言いがかりに見えるが過去にランドックは大事な議論中にも関わらずつまらないギャグを連発して長官職を外されたり、一定期間の会議参加禁止を言い渡されたりと問題の多い人物であった。しかもこのときも『冤罪阻止のために・・・』と言っていたときに顔がにやついており、過去にギャグを発したときの表情と似ていたという。それを見ていたクラインベックにジギィがある本を渡すとクラインベックも口元をニヤリとしたのである。そして本を右手に持って掲げたのである。
「(ジギィ、ありがとうな!さすが俺の恋女房!)ウタイビー長官、これ、な~んだ?」
「・・・!?」
「ふぉぉっ!?それは!!!」
クラインベックが本を取り出すとその本を見たウタイビーの顔が凍りついたのだ。そして本を見るなりランドックは変な声をあげて驚いていた。
「本のタイトルは2006年冬発行の『冤罪死刑事件資料集』といい著者はウタイビー長官と公務副長官の【ジム・ピーターマン】上院議員との共著です。ランドック副長官も編集に携わっていたそうです。この過去に出版された書籍を読むと公安自治関係者の皆様方の冤罪の死刑執行に対する問題への取り組みの無さと適当なテロ対策への姿勢などが伺えます。」
「いやいや、クラインベックさん。これは誤認逮捕などを防ぐための資料として・・・」
「へえ、そうなんですか?」
「何!?」
ランドックが弁明をするもクラインベックは指摘できる部分があるのか自信を持った表情であった。
「では、書籍の47ページの事案⑥の『ジャンクとの別れ』を読みます。これは【ジャンク】氏と同房だった【ルネ】氏の話が紹介されています。」
ー事案⑥『ジャンクとの別れ』ー
僕、ルネはある殺人事件で拘束されていたジャンクという同い年の子と同房であった。話を聞くと家を放火して住民を殺害したとあるが火の気はなく一部からは魔術による放火とされているがルネは治療系の魔術専門で火を放つなどといった攻撃系の魔術は取得してなかったという。
(中略)
少ししてから早朝に看守がやって来て『審理の日だよ』と言った。僕は『良かったな』というと『審理は大体昼だよルネ。君とはここで・・・だよ』とジャンクは言った。そしてその日の夕方に絞首台でジャンクは命を落としたと別の看守から聞いた・・・
僕は『突然審理もせずに刑場に連れていかれた』ジャンクの気持ちを理解してやれなかったことを今も悔やんでいる。
ー完ー
事案を読み終えるとクラインベックは再びウタイビー達を睨み付けて指摘したのである。
「市川事件については話によると全ての審理が終了しておらず、裁判抜きでテロリストに仕立て上げて処刑しようとしたのをすでに情報筋から聞きました。例の事件については普通の人が起こせる事件ではないと認識されているのに市川死刑囚の犯行だと裏付けもせずに決めつけたあなた方の罪は重いですよ!!しかもこれは陸・海・空軍にも配られていたそうです。軍関係者が市川死刑囚を熱心に追いかける背景はこの本にあるようですね!とんでもない話です!」
クラインベックの追及にウタイビーは強く顔をしかめていたのであった。
ーその頃の雄太ー
雄太は病院らしき場所のベッドの上で座っていると小さな女の子5人が大人の黒いテンガロンハットを被りサングラスを掛けた男性と一緒に花を持ってやって来たのであった。
「え、どちらさまで?」
「やあ、雄太くん!私は【ヨセップ・チェイニー】という。この子達はこの村の戦災孤児達で前任の村長が世話をしていた子供達だ。」
「はじめまして、【ユリ】です!」
「【サユリ】です!」
「【アキ】です!」
「【カズサ】です!」
「【アユミ】です!」
「(え?前の村長?ヨセップさん?それで何で俺の元に・・・?)こんにちは、村長の市川雄太です!みんな、よろしくね!」
『よろしくお願いします!』
皆が一斉に礼儀正しくあいさつをすると雄太は笑みを浮かべていた。
会議場では雄太のことについて重大な議論が交わされていた。少しずつ雄太に関する風向きが変わるかも知れない。そして雄太の元にやって来た子供達は一体・・・?




