火山トンネルと脱獄死刑囚の見た懐かしい景色
停車駅の一つである【スタジウスポート】駅で見知らぬ男性に正体がバレかけたり、世間から生死不明と判断されてしまったりと色々な出来事に見舞われる雄太は終点【トランビュート】駅を目指していたのであった。
電車は『スタジウスポート』を出て次の停車駅を目指すが雄太はただ車掌として勤務するだけでなく景色を見ながらどこで情報を集めればいいか働く傍らで常にアンテナを張りながら調べていたのであった。
「(また山の中に進むな。しかし自然は綺麗だし、何らかの手掛かりもありそうやな。)」
雄太は車掌室に置いている自分用のメモ帳に気になることを記しては旅の参考にするようだ。準備をしながら仕事に取り組めるのはありがたいものである。
「(さすがシャッキーさん。この仕事は問題点も少しあるけど旅の下見にはもってこいだよ!ありがたい!)」
一方で雄太は少しずつ仕事も覚えてきたのか動きも良くなり、アナウンスや出発の合図もしっかり出来るようになってきたようだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
その頃、巨大なビルがたくさんあるオフィス街のような都市部では各場所に雄太の手配書が貼られていたのである。さらにこの日は都市の中心部にある広い公園の中に設置された巨大なモニターの前には大多数の人々が集まっていた。そしてモニターの映像が映ると画面には初老の男性が現れたのである。
『皆様方、こんにちは!この度は【脱獄死刑囚・市川雄太に関する情報】をお伝えしたく全世界の電波にこのお知らせを流すことにいたしました。』
「市川はどこだ!?」
「怖くて街も歩けないわ!!」
とある放送のようだがそれが始まると雄太が逃走して未だに捕まっていないことに怒りを抱いていた視聴している人々がヒートアップして激怒したのであった。
『この度は現在も逃走しているとあって我々に対する非難も多いでしょう。ですが我々は国家に携わる者としてその対策に取り組んできました。』
「ちゃんとしてきたのか!?」
「ならばなぜ市川は拘束されてないのよ!?」
この国家に携わっているらしい男性が発言する度に人々は怒りの声を挙げている。雄太がこの世界で相当憎まれている存在であることが伺える。そして・・・
『しかしながら先程入った情報によりますと市川は現在生死不明ということが判明しました。』
するとこの発表直後に拍手をする者やさらに怒り出すものと分かれたのだ。
「もしかして死んだ可能性があるのか!?それなら儲けだ!!」
「ちょっと、そこはハッキリさせてよ!!生きていたら大変よ!!」
そんな騒がしい中あるスーツ姿の若い男性がモニターを見つめていた。そしてニヤリと笑って呟く。
「(やつは死んだ?否!まだ生きているさ。雰囲気で大体分かるがどこかにいる!)」
雄太の生存を確信しているこの人物は一体何者だろうか。その彼の確信に気付く者はその場に一人もいなかったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆
雄太の生死が世間の話題を集める中で当の本人は次の駅のお知らせをしていたのであった。
『次は、【エガノアンテニー】!エガノアンテニーです!』
「お!次は【エガノアンテニー】だったね。センちゃん元気にしているかなあ?」
「ヒートンさん、センちゃんって・・・?」
「いやいや、独り言だよ。ごめんごめん!あ、それよりももうすぐ【エスパーダ火山】を貫く【ブルーチゴッタルドトンネル】だよ。」
「あ、トンネルが見えますね。ん?何か中が赤くかオレンジに染まっているような・・・」
「ああ、あれはね・・・あ!パリーヌ君、窓を閉めて!」
「え、何で?」
「いいから!」
「は、はい!」
ヒートンに言われて雄太はすぐさま窓を閉めると電車はエスパーダ火山に突入したのである。
「ぐ!!熱い!?」
「熱いよ~!!気を付けて!!」
「あれ?明かりがないのに照明があるように明るく見えるな。」
トンネル内は照明ランプがないにも関わらず少し明るめであった。しかし直後に雄太はえらいものを見てしまったのである。電車が走る線路を囲む柵があったがその柵の下の底を見るとなんとマグマの池であった。
「・・・なんじゃこりゃ!?」
「なんじゃこりゃって・・・火口だよ。エスパーダ[火山]だからね。」
「いやいや・・・これは・・・危ないでしょ。」
火山を貫くトンネルなだけあって火口の上を通るようだがこのような光景を初めて見た雄太は顔が驚愕していた。
「(明るいというよりマグマが煮えているからトンネル内が明るくなったように感じるだけだなぁ。)」
危なっかしいトンネル横断だが電車は長い長い火口の上のトンネルを越えて行くと雄太は異世界の凄さを実感していたのである。
「(すごいなあ異世界って・・・ウェブ小説で異世界の話を読んだことがあるがこんな感じなのかなぁ・・・)」
逃走ばかりしていたためにゆっくり世界を見る余裕がなかった雄太にとってバレてはいけないといえ鉄道からゆっくり眺める景色は斬新なものであり、異世界であることを実感させられるものであった。するとトンネルを抜けるとまた別のトンネルを潜ることになるのだがトンネルとトンネルの間の草原をよく見ると一部が大規模に焼けているのだ。
「(あれ?何だろう、あの焼け跡は?)」
雄太が焼け跡を眺めているとヒートンは窓を開けて雄太に焼け跡の説明をしたのだ。
「パリーヌ君、あの焼け跡は数日前にヘリコプターが墜落して大火事になったんだよ。それとね・・・」
「それと?」
「そのヘリコプターには誰も搭乗していなかったんだよ。」
「え!?」
「パリーヌ君は何か知っているのかい?」
「い、いえ・・・ちょっと誰も搭乗していないということに驚きまして。あはははははは!」
「そうだよね。驚くよね~、そんな話を聞くとね・・・」
「え、ええ!(あれ、もしかして・・・)」
雄太の驚く気持ちを理解したヒートン。しかし雄太にはそれに見覚えがあるようだ。そして電車はトンネルを潜って外に出ると都会とまではいかないが町の景色が見えてきたのである。そしてそこから少し走ってから町が近づき、電車がカーブを右折して川の上の橋を渡ると雄太は突然目に涙を浮かべたのである。
「どうしたの?パリーヌ君!」
「ヒートンさん、この景色をどこかで見たことがあります・・・」
「え!?」
「いや、僕の気のせいかもしれませんが。」
うっかりヒートンの前で変なことを言いかけた雄太だがその線路を囲む白い鉄製の柵に線路沿いの家や建物が雄太の目を奪う。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ある町の線路沿いで電車を眺める幼稚園児の男の子が居た。そして他の子供達を連れた大人の女性が男の子を呼ぶ。
「雄太く~ん、行くよ~!」
「まだ見たいよぉ~!」
男の子は再び線路を眺めると笑顔で走る電車を見つめていたのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
すると雄太の身体をヒートンが強く揺すっていた。
「おーい、パリーヌ君!パリーヌ君!」
「あぁ~!?すみません!」
「アナウンス!アナウンス!」
「あ、はい!」
そして雄太は【エガノアンテニー】到着のアナウンスをしたのである。
『まもなく【エガノアンテニー】、エガノアンテニーです!左側の扉が開きます。ご注意ください!』
するとアナウンスを終えた雄太はさらに涙が溢れていたのである。それは・・・
「(駅舎も見たことがある・・・!というよりまさに異世界のあそこだ!!)」
懐かしい景色を見た雄太は涙の止まらない目を右手でこすり続けるしかなかったのだ。ヒートンの心配をよそに雄太は涙を抑えられなかったのだ。
「(元の世界に帰りたい・・・この本当の景色をもう一度肉眼で見たい。)」
雄太は元の世界に帰りたい気持ちになってしまったのである。そして鉄道員就任最初の電車の旅はいよいよ終わりを迎えるのであった。
懐かしい景色を目の当たりにして涙が止まらない雄太の鉄道員としての最初の旅はいよいよ終わろうとしていた。そして雄太の生存を確信する男性と墜落したヘリコプターの正体とは?時間が進むにつれて雄太の周りで数奇な運命が絡み合う。




