初出勤と世間の怒り
シャッキーの提案でチャンス鉄道の鉄道員として勤務することになった雄太はカーブルに一人で向かう。
雄太はグリーンフィールドから隣とあってシャッキーから貰った地図で迷わずカーブルに到着するとすぐにチャンス鉄道の会社へと向かう。そして会社のビルに到着して鉄道員として初出勤した雄太は社内の事務所に入るととにかく右も左も分からないので同僚となる者達に頭を下げてしっかり挨拶をした。
「皆様、はじめまして!!僕は【グリーンフィールド】から来ました【パリーヌ・トランビュート】と申します!本日から勤務することになりましたのでこれからもよろしくお願いします!!」
すると周りの反応は明るかったのである。
「なかなかの好青年だな。」
「挨拶が丁寧で素晴らしいわ。」
「パリーヌ君、よろしくな!」
皆に褒められて頬を赤らめる雄太であったがもちろん不安は存在した。
「(勿論僕の正体が『市川雄太』だと気付かれたらそこでおしまいに等しい。必ずバレないように大人しくしておこう。)」
「はじめまして、トランビュート君!」
「わっ!は、はじめましてっ!?」
後ろから突然声を掛けられて驚く雄太であった。声を掛けた人物は・・・
「はじめまして、【パリーヌ・トランビュート】です!これからもよろしくお願いします!」
雄太は声を掛けてきた男性に頭を下げて挨拶をすると男性は笑顔で自己紹介した。
「こちらこそはじめまして。立派な青年だな、感心するよ。私はチャンス鉄道副社長の【デニス・ログフィアー】という。よろしく頼むよ、トランビュート君!!」
「わ、新人に副社長直々の挨拶!うらやましいなあ!」
「は、はい!これからもよろしくお願いします!デニスさん!」
どうやら周りの反応から副社長が新人に直にあいさつに来るのは稀のようである。
「何かあれば私に色々と質問したまえ。私はこの道5期28年目の経験があるからね!」
「(5期?)28年ってす、すごいですね。」
「いやいや、まだまだ上手はいるから。それと君の上司は【ロージュー・ヒートン】君という3期16年目の子が指導してくれるそうだ。」
「?」
「どうかしたか?」
「すみません、緊張していまして。」
「まあすぐに慣れるさ。」
「は、はい・・・(何だろう?さっきから3期とか5期とか政治家とか公職じゃないんだから。)」
確かに雄太の疑問は的確であり、前日もシャッキーが『まずは6年間』と発言したりデニスの言う『3期16年目』や『5期28年目』というのは何のことか世界の仕組みを知らなければ理解しがたい数字だからである。ましてや『何期何年』とは雄太の世界の政治家等の任期を表す数字であり、職業に任期があるのかと思ってしまうのも無理はない。
「パリーヌ君、何か分からないことがあるの?」
「え、は、はい!」
悩んだような表情の雄太に長髪の若い女性が話し掛けてきた。
「分からないことがあればデニスさんでもヒートンさんでも私にも聞いて!私は2期8年目の【ジュリア・ワーキングホルダー・クルン】よ。よろしくね!」
「あ、ありがとうございます!ぼ、ぼ、僕は【パリーヌ・トランビュート】といいます。(2期・・・?)こちらこそよろしくお願いします!」
ジュリアに対して雄太は頭を下げると地面にカードを落としていたことに気が付いた。
「(あれ、ポケットに入れていたはずなのに何で落ちたんだろ?あ、更新されている・・・どれどれ?)」
『1年目・・・気付キ、学ビ』
『2年目・・・幅ノ広ガリ』
『3年目・・・別レ』
『4年目・・・事件解ク』
『5年目・・・難関』
『6年目・・・一区切リ、ソシテ次ヘ』
「(?)」
「どうしたんだ?トランビュート君!」
「あ、いや!カードを落として拾ったんでこれ・・・ってああ!?」
「どうしたのかねトランビュート君?」
雄太は再びカードを見ると先程の6年間のことが消えていて新しく更新されていたのだ。
『雄太ノ異界デノ活動ガ今始マル!時ハ2・0・1・7!!』
なんと本名が書かれていたので雄太は驚いてカードを持った手を背中の後ろに置いてごまかす。
「デニスさん、個人情報が書いていたので驚いてしまいました。」
「ああ、そうか。それなら仕方ない。ちゃんと管理するように。」
「あはは・・・すみません。」
少し焦りの表情を見せながらも雄太はごまかせたことに安堵していたのであった。すると事務所内のテレビがニュースを放送したのである。
『ニュースをお伝えします。先日逃亡した脱獄死刑囚の懸賞金を上げることが決まりました。』
「え!?」
雄太は恐る恐る画面を見るとなんと自分の顔が映っていたのである。つまり・・・
『現在国内不法侵入、テロ活動行為などで逃亡している死刑囚の【市川雄太】は懸賞金が700万Cでしたが政府によると昨日に1200万Cに上げられたということです。』
(※日本円にすると1Cは1円。)
すると事務所内で怒りの声が沸いたのである。
「まだあの市川ってやつ生きてるのか!?」
「処刑寸前で逃げるなんて卑怯な野郎だぜ!!」
そしてデニスもジュリアも怒りの声を挙げたのだ。
「けしからん!!早く捕まって処刑されてしまえばいいのに!!」
「そうですよね!こんなやつ絶対に許せないですよ!!」
皆の怒りを見て雄太は目を潤わせて今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「(僕・・・いや、俺はここまで嫌われていたのか!?すごい、本当に大犯罪者だったんだ!!もし正体がばれればただじゃ・・・)」
すると雄太の様子に気付いたジュリアが声を掛けた。
「パリーヌ君?どうしたの?」
「(やばい!バレたか!?)」
怒りからか少し険しくなったようなジュリアの表情を見て見抜かれたと思う雄太だったがジュリアは表情を笑顔に変えたのである。
「ごめんなさいね、初出勤日に皆が怒りを露にしちゃ怖かったよね。」
雄太は頷くとデニスも優しく語りかけてきた。
「トランビュート君、怖い思いさせたな。私達はトランビュート君が来てくれて嬉しいから安心しなさい。そうだ!今度歓迎会を開こう!」
「ありがとう・・・ございます・・・」
歓迎会を開くと提案したデニスに雄太は感謝の気持ちを示す一方で世間の自分への怒りを間近で見た恐怖は忘れられないようだ。しかし雄太は自分に言い聞かせた。
「(俺・・・いや、僕は【パリーヌ・トランビュート】だ!!今は【市川雄太】じゃないんだ。だから怖がるな!!)」
すると事務所に目が細くて七三分けの髪型をした男性が現れた。そして男性は雄太を見るなり笑顔で近付いてきたのであった。
「やあ!君が新人かい?」
「は、はい!」
「僕はチャンス鉄道の鉄道員3期16年目の【ロージュー・ヒートン】だ。」
「ぼ、僕は【パリーヌ・トランビュート】と言います。よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね!」
どうやら男性はデニスの言っていた【ロージュー・ヒートン】その人であった。ヒートンは雄太を歓迎するとデニス達に苦言を言ったのだ。
「あのさあ、俺も市川は早く処刑されるべきだと思うけど新人君の前で大声を出して怒りを露にしちゃダメだろ!怖がるじゃないか!」
「あ、すまんなあロージュー。」
「(この人も怒っている・・・)ヒートンさんでしたっけ?デニスさんは副社長のはず・・・」
「ああ、僕の母親の弟でつまりは叔父さんなのさ!」
「(叔父さんだったんだ。)」
「さあ、パリーヌ君。今から仕事を教えるからね!一緒に行こう!」
「はい!」
ヒートンはデニスの甥であった。そしてヒートンは雄太に仕事を教えるために現場へと雄太を連れて向かうのであった。
温かいアットホームな職場でパリーヌ・トランビュートとして勤務に臨む雄太にとってやりやすい環境である反面、雄太は自分に対する怒りを肌で感じとった。いよいよ鉄道業務に励むが雄太は無事【レンスビレッジ】へと行けるのだろうか!?




