表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

過去作品

裏路地には誰も

作者: A×A

最近、繰り返し同じ夢を見る。

狭い路地を通っている夢だ。

薄暗い路地を通っている夢だ。



その夢の中で、

私は誰かが後ろにいた気がした。

そして、振り返るのだ。

そして、いつも。



そこには誰もいない。






チャイムの間延びした音と共に、退屈な政治経済の授業が終わった。


「ねぇ、美梨?」


先生が退出するなり、私の所に奈緒と桜がやってくる。

彼女らは高校に入ってからの友人である。トランプにはまっていて、昼休みにはよく2組に別れてスピードをしたものだ。


「顔色、悪いよ。保健室行ったら?」


あの夢を見るようになってから、彼女らもクラスメートも、部活仲間も、先生も皆、私に何処かよそよそしくなった。私の異常に気がついているのだろうか。


「先生には、言っておくからさ」


彼女らの科白も、気遣いに溢れすぎていて、気まずい。

でも、調子が悪いのは確かだったので、素直にそのアドバイスに従うことにした。




保健室に行った結果、どうやら熱があるようだ。道理でだるい訳だ。

一時間寝させてもらっても気持ち悪さはとれず、早退することになった。迎えを呼ぼうか、と言われたが生憎両親は共働き。電車だし、一人で帰ることにする。




学校から駅までは歩いて5分。受験の時は、駅から近くてよかった、と笑いあった距離。

でも、病人にはつらい。

ふと八百屋の隣の小さな路地が目に入る。


「里。里。ここ」


嗚呼、そうだ。近道だ。

ここを通ると更に半分の時間で駅に行ける。

私はふらふらとそちらに向かう。



嗚呼。そうだ。やっぱり。



そこは、夢の中の路地とそっくりだった。

薄暗くて、狭い。

「美梨、ちょっと、怖くない?」

声が聞こえる。女の子特有の声だ。

私の後ろに、誰かがいる気配。

それが。それが。



嗚呼。そうだ。私は。



私は、振り向く。

後ろには、誰もいなかった。

それは絶望だった。






「やばい。電車間に合わない」

「走れ、走れぇ!」

「里。里。ここ」



「近道。半分で行ける」


私は、あの路地を指差した。

私には、もうひとり友人がいた。

名前は、里。


「美梨、ちょっと怖くない?」

「大丈夫、大丈夫。里」


私の後ろに、彼女はいた。

いたはずだった。


「何も、起こらないって……?」


でも。

振り返ったら、誰も。

そこには誰もいなかった。



私は、路地に座り込んだ。

あの日。私が近道をしようとしなければ。

あの日。ちゃんと里を気にしていれば。

里は、誘拐なんてされなかった。

もう二度と、会えないなんてことはなかった。

嗚呼。嗚呼。嗚呼!!


「里!」


私は叫ぶ。喉が。頭が。胸が。

嗚呼。嗚呼。嗚呼!!

痛い。苦しい。寒い。熱い。

嗚呼、嗚呼。嗚呼!!


真っ白。







最近、繰り返し同じ夢を見る。

狭い路地を通っている夢だ。

薄暗い路地を通っている夢だ。



その夢の中で、

私は誰かが後ろにいた気がした。

そして、振り返るのだ。

そして、いつも。



そこには誰もいない。




朝、母は言った。

「美梨。また熱を出したの?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ