8話
声をかけられたはずだがその声の方向には誰もいない。
エイジは元の方向へ向き直ると募集の掲示板に見落としがないか再確認し始めた。
「あのー、無視しないでほしいデス」
またしても背後から声が聞こえる。
しかし振り向いても誰もいない。
どうやら呪われてしまったようだ。
どうも最近疲れやすいと思ったら呪われてたんだな。
そう解釈したエイジはひとまず宿に戻って休むことを決心する。
そして帰途に着こうと振り向き、出口に向かって歩き出そうとしたところ
「あだっ。何するデスか」
何かにぶつかったようだ。
おそるおそる視線を下に向けてみる。
なんとそこには小さな女の子がぶつかった箇所ををおさえて涙目になっていた。
エイジの身長は180cmを優に超えている。
対して目の前の女の子は身長150cmにも満たないであろう。
ふわっとしてさらさらなボブカットで亜麻色の髪。
大きなエメラルドグリーンの瞳が特徴的で、どこか異国人のような雰囲気の漂う女の子である。
ローブを装備し、杖を携行しているところから察するに僧侶か魔法使いのようだ。
「すまんすまん、見えなかった」
「もうぶつかったことはいいデス。それよりも何度も声をかけているのに無視しないでほしいデス。」
「あー、そういや何度か空耳が聞こえてたな。いやーよかったよかった。てっきり悪霊に憑りつかれたかと思ったよ」
「誰が悪霊デスか!それよりいい加減に話を進めたいデス」
「まあそうだな。で、俺に何の用?」
「ちらっとつぶやきが聞こえたデスが、塔へのパーティーメンバーを探しているデスよね?よろしければ私とご一緒しないデスか?」
「いや、いいや」
「って即答デスか!ちょっとは考えてほしいデス……」
「いやー、正直君は戦力にならないかなと」
「正直すぎデース!これでも私は治癒魔法が使えるデス。お見受けしたところあなたは戦士デスよね?旅のお供に僧侶を一人いかがデス?」
エイジは現在先ほど購入した抜けない刀を腰にぶらさげている。
本来魔法使いが必要とする杖のような触媒を手に持っていなかったため、エイジははたから見ると刀を使う戦士のように見えるのであった。
ちなみにこの国には侍という職業は存在しない。
武器をメインに戦う前衛は総じて戦士として扱われ、西洋の剣をメインにするものを特別に剣士と称することもある。
「んー。確かに僧侶は魅力だな。ちなみになぜ塔へ?」
「塔の頂上に行きたいデス。どうしても叶えたい願いがあるデス」
「そうか、そんなに身長を伸ばしたいのか」
「ぐぬぬ。もう突っ込み疲れたデス……」
「悪かったよ。よし、じゃあひとまずお試しということでパーティーを組むか」
塔の頂上を目指す。
実はそれを目的とする冒険者はそれほど多くない。
なんでも叶うという玉は魅力的ではあるが、実際に見たものがいないためあくまでも噂の類とされており、また大抵の冒険者は塔の上層階の危険性を身をもって体験している為、リスクをおかしてまで不確かなものを求める冒険者は少ないのであった。
エイジは塔の頂上を目指す少数派であり、目の前の少女もまたそれを目的とする同志である。
正直今は役にたたないかもしれない。
だがまだ年齢が低いだけで今後化ける可能性は否定できず、塔の頂上を目指す冒険者とは少しでもつながりを持っておこうと考えたのである。
何より目の前の少女はかわいい。
かわいいは正義という先人の名言を踏襲する意味でも、エイジは目の前の少女と行動を共にしてみようと考えたのであった。
「おー。やっと話がすすんだデス。ではあらためてよろしくお願いしますデス」
「こちらこそよろしくな」
ぱらぱらぱっぱっぱー♪
変な生き物が仲間になった。
「誰が変な生き物デスか!」
「いや、お前」
「ムキー!」
「お前はほんとおもしろいな」
「……はぁ。もういいデス。でも私にも名前があるデス。できれば名前で呼んでほしいデス……」
「わかったよ。よろしくなゴンザレス」
「うがー!誰ですかその毛深そうな人は!メルデス!私の名前はメルデース!」
「すまんすまん、よろしくな、メルデス」
「塔に行く前に血管が切れて死にそうデス……」
こうしてエイジに新たに一人の仲間が加わった。
その名はメル。
冒険者パーティーには必須の治癒魔法が使える僧侶である。
抜けない刀を持った戦士と治癒魔法は使えるが役に立たなそうな僧侶。
この先二人を待ち受けるのはどんな困難であろうか。
エイジ達の冒険はこれからである。