5話
現在二人はレンガのようなもので出来た西洋風の建物の中にいる。
アインスギルド。
アインス国唯一の公共依頼紹介所であり、広い室内は仕事を求めた人々で賑わいを見せている。
日本でいうところのハローワークといったところだろうか。
ただしパソコンといった電子機器の類は見受けられない。
どうやらこの世界の文明は現代日本より遅れているようだ。
さてどうしよう。
ギルドで係りのお姉さんから説明を受け、とりあえず依頼を達成すれば報酬をもらえることは理解できた。
しかし文字も読めなければ単語の意味もわからない。
英志が依頼を決めあぐねているのにいらついたミライが適当に依頼を選ぶ。
依頼内容は「絶望の谷」にてとある薬草を採取するものだった。これなら初心者でも楽勝らしい。
そして英志達は絶望の谷へと赴いた。
目的の薬草はすぐに見つかった。
ただ薬草は崖の壁面に咲いており、英志がそれを採ろうと崖の上から手を伸ばす。
ミライがそれを遠くから見つめる。
牙を剥いた獣もそれを見つめる。
そして獣は英志に向かって走り出す。
ミライはそれを遠くから見つめる。
「って助けろよ!」
英志が必死に懇願するのを満面の笑みで見ながら、ミライは光り輝く魔法を獣へと放った。
こいつ絶対ドSだろ。
英志はそう思いつつも、助けてくれたミライへお礼を―――
そう思った英志が最後に見た光景は、何か強大な力に吹き飛ばされたように、
ありえない速度で突進してくる、一匹の大きな獣の姿だった。
絶望の谷殺人事件。
後に大賢者の書に記され、吟遊詩人によって語り継がれることとなった事件は、こうして幕を閉じたのだった。
それから2年の月日が流れた。
「買い取り額は300ゼニーです」
「ありがとう」
ついにこの日が来た。
エイジは今しがた手に入れたゼニーを持って、
ほくほく顔でとある店に入った。
「らっしゃい」
「ロングソードを一つ」
「まいど」
ついに念願のロングソードを手に入れたぞ。
エイジはこみ上げる興奮を抑えたまま、そっと店を後にした。
エイジが次に訪れたのはドライ国のギルド。
「依頼を受けたいんだけど」
そういってエイジが受けたのは、スリーミー討伐の依頼。
スリーミーは魚のすり身のようなモンスターである。
柔らかくて非常においしい。
「おお………」
スリーミーが一刀のもとに崩れ落ちる。
今まで装備していた棍棒だと6発は必要だったスリーミーが一撃である。
エイジは圧倒的効率アップに、思わず顔がにやけるのであった。
倒したスリーミーの魔石を回収し、ギルドに報告する。
魔石の売却と依頼報酬で200ゼニーを手に入れた。
次の目標額は2000ゼニー。
2000ゼニーでランク3のバスタードソードが購入できるからだ。
ちなみにロングソードはランク2で、棍棒がランク1である。
ゼニーという単位であるが、日本円のおよそ100倍の価値。
つまり1ゼニーは100円ほどの価値がある。
1日200ゼニー稼げば10日程で目標額だが、生活費も稼がなくてはいけない。
もう少し稼げる場所を探すか。
そう考えいつもの宿でベッドに寝転がりながら、エイジは眠りに落ちていくのだった。
「せいっ!」
ロングソードがうなりを上げて対象を袈裟切りにする。
目の前のうりゅふが断末魔を上げて魔石となった。
「ロングソードで6発か。囲まれるときついかな」
エイジはひとりごちて魔石を拾い上げる。
そして腰に下げた魔法の袋に魔石を放り込んだ。
本日の依頼はうりゅふ討伐。
狼のような魔物であり、集団行動することが多い。
エイジは地道に今いる森を駆けずり回り、群れを離れた単独のうりゅふを狙って討伐していたのだった。
目標の討伐数をクリアし街へ引き返そうとした時、どこかで悲鳴が上がる。
触らぬ神に祟りなし。
そう考えたエイジは聞こえなかったフリをし、見つからないよう街へと歩いていくのだった。
しかし先ほどエイジが倒したうりゅふの断末魔を聞いた他のうりゅふの群れが、どこからともなく集まってきてエイジの目の前に立ちはだかる。
さすがにこの数を相手にするのは無理だ。
そう瞬時に判断したエイジは、
悲鳴の上がった方角に向かって全力で駆けていったのだった。
駆けていった先で、どうやら同じくうりゅふの集団と戦闘を行っているパーティーを発見する。
「助けに来たぜ!」
後ろに大量のうりゅふを従え、エイジはそう叫んだのだった。
「助けに来たって………どうみても状況が悪化してるだろ!」
目の前のパーティーのリーダーらしき戦士が冷静につっこみを入れる。
どうやらまだ余裕があるようだ。
「話は後だ。騙されたと思って少し時間を稼いでくれないか?」
エイジはそう言い放つと同時に持っていたロングソードを鞘に戻し、両手を合わせ詠唱を始める。
「まさか………魔法?おい、皆、こいつを援護するぞ!」
散開していたパーティーがエイジの周囲に集まり、襲いくるうりゅふの群れ相手に必死の防御を行う。
「求めるは水。全てを覆い尽くせ、ウォーターハザード!」
腕を振りかざし叫ぶ。
どこからともなく大量の水が現れ、周辺のうりゅふすべてを飲み込んでいく。
激流の中で体をねじ切られるうりゅふの群れ。
後に残ったのは大量のうりゅふの魔石だけであった。
「さ、災害級かよ。初めて見たぜ………」
「助けに来たといったろ。まあ、俺も詠唱の時間稼ぎにあんたらを利用しにきたんだけどね。魔石は山分けでいいかい?」
「ああ、こっちもヒーラーが奇襲でやられてな。かなり危険だったから助かったよ」
あの悲鳴はヒーラーの悲鳴か。
あそこに座ってるのがヒーラーかな?結構かわいいね。
そう思いエイジはヒーラーに近づいていく、
そして治癒魔法を唱えてヒーラーを治療したのだった。
「治、治癒魔法も使えるの!?」
驚愕の表情を浮かべるヒーラーと他のパーティーメンバーたち。
質問に答えず黙々と魔石を拾うエイジ。
「さて、これがあんたらの分ね」
「おお、すまないな………?」
どさり
どさり
どさり
次々と倒れるメンバーたち。
「え、え」
最後に残ったのはヒーラーの女の子。
しかし彼女の意識も唐突に刈り取られ、その場に倒れこむ。
「さて、ウォール!」
パーティーメンバーを見えない透明な壁が包み込む。
弱い魔物なら侵入するどころか、中にいる人間の気配すら感じ取ることができないだろう。
「森の主級が出てきたらかんべんな」
そうエイジは言い残し、颯爽と街へ帰っていくのだった。