2話
「ではHRはこれで終わりだ。夏休みだからってハメを外しすぎるなよ!」
担任のいかにも体育会系といった筋肉質の教師がそう一喝し、英志の高校1年1学期は終わりを告げた。
「英志、どうせ暇なんだろ?誰か誘って打ち上げ行こうぜ」
そう英志に話しかけた男の名は山田太郎(仮)。
きさくでさっぱりとした性格をしており、英志とは高校で出会ったのだがすぐに打ち解ける間柄となった。
「悪い、今日は用事があるのでパス」
「あー。そっか、お前にはミツキがいるからな。くそっ、独り身が身に染みるぜ」
「ば、馬鹿、違うって。バイトだよ、バイト。今日から俺は勤労少年になるからお前と遊んでる暇がないんだよ」
「何、お前バイトすんの?何の仕事?」
「あれ、そういや何の仕事だろ」
「……仕事内容もわからないのにバイトの応募したのかよ」
「いや、家から近かったし採用条件にぴったりだったから。なんとなく勢いで」
「ふーん。で、採用条件って?」
「なんだっけ。若い体?だったかな」
「いやいやおかしいってその条件!なんて会社だよ、それ!?」
「ブラック会社だったかな?ほんと即採用されてビックリしたよ。ひょっとしたら俺って見る人から見たらすごい才能のオーラで満ちてるのかも」
「そ、そうかもな」
そこで話を終えた二人はともに帰宅した。
帰り道のコンビニで山田太郎(仮)は「元気でな」といってビニール袋を英志に手渡す。
中には一本の栄養ドリンクが入っていた。
「帰りは遅くなるかもしれないって母さんに言っておいて」
「どこ行くの、お兄ちゃん?」
「あー、山田と遊びに行くんだよ。晩御飯は適当に食べてくるから」
「ふーん。あんまり遅くなったらお母さん心配するからダメだからね」
「わかってるよ。じゃ、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
何気ない妹との会話を終え、英志は家を出る。
父は外交マンで家を留守にすることが多い。
母もたまに父について行っていなくなることがある。
兄はすでに就職して都会のなんとかという大手企業に就職して家を出ている。
結果英志と妹が二人きりになることが多く、寂しさからか妹は英志を慕ってやまないのである。
家を出た英志はまっすぐ職場へと向かう。
面接時に言われた通り動きやすいラフな格好をしていて荷物は特にない。
職場に着くと英志は受付のお姉さんに挨拶をし、再びオフィスまで案内してもらう。
そしてオフィスへと足を踏みいれる。
中には面接官の研究者然とした女性が一人パソコンに向かっていた。
「改めましてよろしくお願いいたします。私は株式会社ブラックの人事担当、喪黒貞子といいます。以後お見知りおきを」
研究者然とした女性は立ち上がり英志の元まで歩み寄ると一礼し、そう告げた。
「こちらこそよろしくお願いします。武宮英志といいます。アルバイトは初めてですが精一杯頑張ります」
「それではさっそくですが仕事内容の説明を致します。こちらへどうぞ」
簡単な挨拶をかわして女性は英志をオフィス奥へと導く。
奥には扉があった。
そしてその扉を開けて通路へと出る。
通路はさらに奥の扉とつながっており、彼女の指紋や網膜、さらにはパスワードとかなり厳重なセキュリティーを突破してようやくその奥へと進むことができるようだった。
(ずいぶん厳重だな)
そんな疑問を持ちつつもどうやら目当ての部屋に着いたようで女性が立ち止まる。
「これから仕事を始めるにあたって、まずは身体検査を受けていただきます。そちらに横たわってください。」
そういって彼女が指し示したのがSF映画に出てくるコールドスリープ装置のような白いカプセル型の機械だった。
英志は言われるがままそこに横たわる。
そして彼女がカプセルの蓋を閉め、カプセル手前のタッチパネルを操作する。
初めてのアルバイトで興奮し、昨夜寝付けなかった英志。
「眠たければどうぞお休みください。眠っている間にすべて終わりますので……」
そうカプセル越しに話しかける女性の声を聞きながら、緊張で疲れていた英志は眠りへと落ちていくのであった。